第三幕、御三家の矜持
 桐椰くんとはどんな遣り取りも大体堂々巡りだぞ、と内心憤慨しながらテニスコートに向かう。お互いに「なんなんだよ!」とぶつかっては「とりあえず保留で」が多すぎる。こんなことをしたって何の進展もしないのに。

 テニスコートはやっぱりギャラリーでいっぱいだった。分かってた、松隆くんと鹿島くんの決勝戦って時点でなんとなく予想はついていた。最前列をとるためには決勝戦を見越して準決勝の時刻から陣取っておく必要があったのかなとさえ思ってしまった。

 そして、私が行けばザッと視線が向くわけで。女子の殺意の籠った視線にいたたまれなくなりながら、こそこそとコートへの入り口を探す。色々言われているけど聞こえないふりをする。もういい加減慣れてしまったので「悪口も変わり映えしないね!」なんて感想しか抱けないし。

 と、そこで心強い味方を見つける。松隆くんのギャラリーにしては妙な円を作っている一団がいるかと思えば、中心にいるのはスポーツ仕様の月影くんだ。


「ツッキー!」

「黙れ」


 叫べば、女子からの「は?」と言いたげな視線が答えたし、月影くんからはダイレクトな拒否が返ってきた。よく考えなくても、お墓参りの一件で月影くんには軽いお説教を食らっているし、今まで通りに何があっても味方だよねみたいな悪ふざけをするのはちょっと厳しいかもしれない。


「ツッキーも松隆くんの応援?」

「だったらどうした」

「一緒に中に入ろう?」

「それができたらしているんだが」


 女子という壁を挟んで会話をする私と月影くん。なるほど、月影くんは自分を囲む女子を掻き分けてテニスコートに入ることはできないわけですね。


「じゃあ……仕方ないから私だけ中に」

「置いていくというなら君を女子に売る」

「女子に売るって何? 意味わからな過ぎて逆に怖いよ?」

「試合が始まる、退け」


 結局月影くんの一声で「えーやだー」「押しのけていいよー」なんて笑い交じりの声が湧く。瞬間、「チッ」と容赦ない舌打ちが聞こえたし、眼鏡の蔓に邪魔されることなく見えてしまったこめかみには青筋が浮かんだ。月影くんのファン、猛者だな……。

 結局月影くんのガチ切れにも女子が空気を読む気配はなく、私は一人こそこそとテニスコートの入口に向かう羽目にになった。すると、コート内で軽くアップをしていた松隆くんがこちらを向く。

< 240 / 395 >

この作品をシェア

pagetop