第三幕、御三家の矜持

「あれ、駿哉は? 見に来るって言ってたのに」

「あそこで捕まってる」

「あぁ」


 指を差しただけで松隆くんは察した。軽く頷くと、入口まで歩いていく。それに合わせて歓声が移動した。なんなんだあの男。芸能人なのか。


「駿哉、まだ来ないの」


 そして火に油を注ぐ……。いつでも笑顔ですごいことやってのけるよね、あの人。当然月影くんの「この状態を見て分からないわけがあるまい」と苛立たし気な声が返ってくる。そうだよね。

 一体どうするおつもりで、とおそるおそる松隆くんの横顔を見ていると、「そう」と妖しい笑みを浮かべる。


「つまり、ここにいる女子は、俺達の邪魔をしたいというわけ」


 瞬間、松隆派女子の非難の目は月影派女子へ向き、月影派女子の壁が割れた。月影くんは一安心したような顔でやってくる。松隆くんは笑顔のまま「大変だね、駿哉も」なんて飄々と言いながらコートへ戻る。


「……松隆くんの声、本当に鶴の声って感じ」

「普段愛想がいいだけに少しでも怒るときくんだろうな」

「月影くんはいつも不機嫌そうだもんね。そのぶん効果減退してるのかもね」


 桐椰くんは身内以外には不愛想だけどヤンキーのすごみがあるからよしとしよう。

 そうして、無事に二人でちょんとベンチに座る。反対側のコートには鹿島くんがいるのであまりそちらは見ないようにしておく。


「……また鹿島と何かあったのか」

「何もないけど、多分鹿島くんはストーカーなんだろうなってことで私の中で結論が出ました」


 あながち間違いではないとはいえ適当なことを答えたけれど、月影くんは「そうか」と返事をしただけだった。

 さて、決勝戦開始時刻。審判が口を開いた。


「では、男子テニスの決勝戦を始めます」


 ファーストサーブは鹿島くんだった。鹿島くん派の歓声があがるも、松隆くんは難なくレシーブ、そして歓声。返ってきた右ストレートをボレーで決めて早速一点先取。松隆くん派からは一層大きな歓声。


「……観客がうるさい」

「分かっていて見に来たんじゃないのか」

「そうですけど……月影くんは気にならないの?」

「もう慣れた」


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