第三幕、御三家の矜持
 月影くんが肩を竦める間にも試合は進行し、鹿島くんのストロークが華麗に決まる。見てなくても歓声が左右どちらから上がるかでどちらが得点したか分かる。便利といえば便利だ。


「で、君はなぜここにいる」

「え、もちろん松隆くんの応援に……」


 月影くんにしてはおバカな質問をするじゃないですか、と訝しんでみせれば、月影くんは眉を吊り上げた。


「……え、なに」

「いや、先日は総や遼と帰ることを拒絶していたが、ほとぼりは冷めたのかと思ってな」


 “ほとぼり”という言い方に皮肉を感じる。散々騒ぎ立てたわりにはあっさりだな、なんて心の声が透けて聞こえた。ぷいっと顔を背ける。


「応援くらいなら別に大したことじゃないもん。松隆くんのファンもいるし」

「総はあれで意外と単純だが、君がわざわざやってきたことをどう思っているんだろうな」

「……月影くん、なんか意地悪だね」


 そんなことを言われたら何も返せないんですけど、と睨み付けるけれど、打って変わって月影くんは涼しい表情だ。


「遠回しに言うなんてらしくないじゃん。帰れくらいはっきり言えばいいのに」

「そんなことは一言も言ってないが」

「言ってるじゃん」

「言ってない」

「というか、月影くんの試合は? バスケ負けたの?」

「いや、決勝待ちだ。決勝の前に下位決定戦が入っている関係で暫く待たなければならない」

「あ、そう」


 ということは、テニスとバスケと野球の決勝戦には御三家がいるということか……。つくづく御三家はスペックが高い。


「あれ、じゃあ鳥澤くんは別のチーム?」

「あぁ、バスケは二チーム出ているからな。なぜそんなことを訊く」

「ここに来る前に鳥澤くんに会ったの。二回戦敗退して暇だって言ってた」

「……それは妙な話だな」

「え? なんで?」


 少しだけ眉を顰めて頬杖をつく月影くんに、私のほうが首を傾げる。たったそれだけの遣り取りに奇妙なところがあるだろうか。確かに桐椰くんもちょっと釈然としないような反応はしていたけれど……。


「ここに来る前に会ったということは、鳥澤にはこれからどうするか聞かれただろう?」

「うん、だから松隆くんの試合の応援に行くって話したけど」

「それを鳥澤は素直に受け入れたわけか」

「うん……?」

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