第三幕、御三家の矜持
「鳥澤は君のことが好きだというのに、よりによって総の試合の応援へ行く君を引き留めもしなかったのかと聞いている」


 言われている意味がよく分からなかった。確かに、鳥澤くんは松隆くんに睨まれていることを自覚しているけれど、だからといって私が松隆くんの応援をするのとは関係のない話では……。


「……つまり?」

「物分かりが悪いな君は。鳥澤は君を好きだというのに、君に当然に応援される総に嫉妬した素振りがなかったのかと訊いているんだ」


 思わず、言葉に詰まった。言われてみればその通りだ。応援に行くということは、相手に対して──友情か恋情かはさておき──好意を持っていることになる。元々私が松隆くんと仲が良いとはいえ、目の前でそんなことを口にされて表情一つ変えないどころか、「松隆に殺されそう」なんて(うそぶ)くだけというのは……。


「……鳥澤くんはあんまり顔に出ないタイプとか」

「そうだとしたら随分芸達者だな。君と映画を見た日に俺達を見た鳥澤は随分驚いて見えたし、日頃の様子を観察していても、穏やかではあるが感情の起伏が顔に出ないとはとてもいえない」


 今まで見てきた鳥澤くんの様子を頭に思い浮かべる。私に告白したときの、少し照れたようなはにかんだ顔──鳥澤くんはよくあんな顔をする。あれが演技だとはとても思えない。だからこそ、御三家に監視されながら映画を見ることに後ろめたさみたいなものを感じてしまっていた。でも、松隆くんを応援するという発言に何の嫌悪感も示さないというのは……。


「もちろん、鳥澤は君にフラれた身ではあるからな。総に嫉妬したところで、一体何の立場から嫉妬するのかと言われてしまえばぐうの音も出まい。そういった理由で顔に出さぬよう努力したというのなら、それはそれで懸命だと思うがな」


 月影くんとそんな話をしているうちに、松隆くんが一ゲーム先取し、鹿島くんが一ゲーム取り返した。前回に引き続き、二人の試合は接戦だ。ただ、松隆くんはジャージを羽織ったままなので、汗をかくほど運動していないのかと思うと松隆くんのほうが若干優勢な気がする。そうだとすると、鹿島くんはインハイに出たことがあるらしいし、松隆くんもインハイレベルと名乗っていいのかもしれない。


「松隆くんって本当なんでもできるよねぇ」

「まぁ、そうだな」

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