第三幕、御三家の矜持
「あのレベルが相手だから鳥澤くんも嫉妬しなかったんだったりして」

「その代わりあのレベルが隣にいても君を諦めないということだな。どうやら君には俺には分からない魅力があるらしい」

「なんでそんな棘のある言い方するの? ねぇ?」


 松隆くんに告白されたと話したときもらしくない頓狂な声を上げたくらいだし、月影くんにとっての私はストライクゾーンを外れているどころじゃないくらい恋愛対象外なんだろう。


「こんなにも私の魅力が分からないなんて、月影くんは一体どんな人を好きになるんでしょうね!」

「自分に理解されて当然の魅力があるかのような言い方をするな」

「どういう人が好みなの?」

「なぜ君に言う必要が?」

「いーじゃん、仲良くなったんだから教えてよ」

「それとこれとは話が別だ」


 でも仲良くなったことを否定はしないんだから月影くんはツンデレだ。わざとらしくニヤニヤと頬を緩める。


「ていうかツッキー、嫉妬が云々って語れるんだね!」

「それがどうした」

「だってツッキーってそういうの興味なさそうだから分からなそうじゃん。それをちょっと話聞いただけでぴんとくるなんて思わないじゃん」

「偏見も甚だしいな」

「もしかして自分にも経験があるの?」


 揶揄い半分で口にすると──月影くんの目に(かげ)りがさした。え、と驚いて口を噤んだ瞬間、わっと歓声が上がったのでテニスコートに視線を移すと、松隆くんがストロークを決めたところだったらしい。ラケットを振りぬいた松隆くんが目に入った。

 その姿には、思わずドキリとする。フォームはもちろん綺麗だけど初めて見るわけではないし、その王子様みたいな顔もいつだって嫌というほど見ているから、その姿が特別珍しいわけではない。ただ、点を取った瞬間の松隆くんの目に、滅多に見えない感情が覗いているのを見ると心を揺らされずにはいられない。松隆くんがあそこまで敵愾心を剥き出しにしているのは、前回鹿島くんに負けたからだけではないと、思うから。


「あれに迫られて恋愛感情を抱かない君は余程昔の男が好きらしいな」


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