第三幕、御三家の矜持
その姿をじっと見つめていた私に思うところがあったのか、はたまた私が月影くんの傷を抉ってしまったのか、いつも以上に冷ややかな声が向けられる。日頃の無愛想を通り越した攻撃のような言葉にびっくりして月影くんを見て──その凍てつくような目に心臓が凍り付いた。御三家の仲間になる前でさえ向けられたことのないそれは──敵意だ。
「駿哉、持ってて」
それが松隆くんのジャージに遮られた。ばふっ、と月影くんは間抜けにも松隆くんのジャージをもろに被る。それを剥ぎ取った月影くんの目は忌々し気に松隆くんを睨みつけるから、私への敵意が消えていることにほっと安堵する。私の代わりに苛立ちを向けられている松隆くんは、当然気にする様子もなく、倒れ込むように私と月影くんの間に座って、そのまま無造作にペットボトルを掴んで喉に注ぐように水分を補給する。ペットボトルについていた水滴がその手首を伝う。
なんとも気まずい空気の中に割り込んでくれたのはありがたいけれど、松隆くんが間に入って解決する話題でもない。しどろもどろと視線を泳がせながら、やっとのことで口を開く。
「……試合勝ってるね!」
「見てないのによく言うよ」
「すみません」
が、間髪入れず返ってきた言葉には項垂れるしかない。いや、全く見ていないわけではない。目でボールを追っているけれど、時々月影くんとのお喋りに気をとられてしまっているだけだ。……あまり見ていないことは否定できないけれど。
ぷはっ、とペットボトルを離した松隆くんは次いで首筋の汗を拭う。お陰でコートの外から「タオルになりたい」と聞こえた。何も聞こえなかったことにしよう。
「おい、人にジャージを投げておいて謝罪はまだか」
「ごめん、邪魔だったからつい」
「俺に投げる理由にならん」
「ていうか、俺の試合の応援ついでに喧嘩するのやめてくれる?」
月影くんは素知らぬ顔だし、私はさっと目を逸らすしで、松隆くんの口からは「それとも俺の応援がついで?」と皮肉が出てきた。言えない、月影くんの思わぬ地雷を踏んでしまったなんて。
「べ、別に喧嘩なんてしてないよ……」
「じゃ、なに。あと五分なら聞いてあげるよ」
「鳥澤がこんな女を好きになるはずがないと口にしたら憤慨された」
「違いますぅ! 別にそんなところに怒ってないですぅ!」
「駿哉、持ってて」
それが松隆くんのジャージに遮られた。ばふっ、と月影くんは間抜けにも松隆くんのジャージをもろに被る。それを剥ぎ取った月影くんの目は忌々し気に松隆くんを睨みつけるから、私への敵意が消えていることにほっと安堵する。私の代わりに苛立ちを向けられている松隆くんは、当然気にする様子もなく、倒れ込むように私と月影くんの間に座って、そのまま無造作にペットボトルを掴んで喉に注ぐように水分を補給する。ペットボトルについていた水滴がその手首を伝う。
なんとも気まずい空気の中に割り込んでくれたのはありがたいけれど、松隆くんが間に入って解決する話題でもない。しどろもどろと視線を泳がせながら、やっとのことで口を開く。
「……試合勝ってるね!」
「見てないのによく言うよ」
「すみません」
が、間髪入れず返ってきた言葉には項垂れるしかない。いや、全く見ていないわけではない。目でボールを追っているけれど、時々月影くんとのお喋りに気をとられてしまっているだけだ。……あまり見ていないことは否定できないけれど。
ぷはっ、とペットボトルを離した松隆くんは次いで首筋の汗を拭う。お陰でコートの外から「タオルになりたい」と聞こえた。何も聞こえなかったことにしよう。
「おい、人にジャージを投げておいて謝罪はまだか」
「ごめん、邪魔だったからつい」
「俺に投げる理由にならん」
「ていうか、俺の試合の応援ついでに喧嘩するのやめてくれる?」
月影くんは素知らぬ顔だし、私はさっと目を逸らすしで、松隆くんの口からは「それとも俺の応援がついで?」と皮肉が出てきた。言えない、月影くんの思わぬ地雷を踏んでしまったなんて。
「べ、別に喧嘩なんてしてないよ……」
「じゃ、なに。あと五分なら聞いてあげるよ」
「鳥澤がこんな女を好きになるはずがないと口にしたら憤慨された」
「違いますぅ! 別にそんなところに怒ってないですぅ!」