第三幕、御三家の矜持
「あぁなに、鳥澤は遂に黒?」
「いや、グレーではあるが、この間話した通り小者臭しかしないため放置しておいていい」
「陰で鳥澤くんのことそういう風に言ってたの? よくないよ?」
「そういえば遼は?」
「勝っているんじゃないのか」
私の言葉を無視して、二人は「あー、そういえば野球はガチで集めたって言ってたもんな」「そう言って集まるのも凄いと思うが」「まぁね。何にせよ、テニスみたいな個人競技は気が楽でいいよ」なんて談笑している。月影くんも松隆くんも、私に関心を向ける向けないの差が激しすぎるんだけど。
「で、お前の勝率はどうなんだ」
「試合を観戦してる人の台詞とは思えないよね、それ。……鹿島も雑魚じゃないし、五分五分じゃないの」
「お前にしては随分弱気に出たな」
「別に弱気じゃないけど」
「五分は弱気だろう。前回負けたからか?」
「だから弱気じゃない」
なんなら月影くんがいつもの私のポジションを奪って松隆くんを煽るときた。しかも煽っている通り越してただ喧嘩を売っているようにしか聞こえない。お陰であからさまに松隆くんの口調が苛立っている。
「負けても仕方がないんじゃないか? 鹿島はお前と違うだろう」
「何が違うわけ?」
「お前は趣味だろう、気にすることはない」
「趣味だったら負けていい理由にはならないだろ」
「気にはするなと言っている。テニスで鹿島の下になったところでお前の経歴に瑕はつかない」
「というか、俺が負ける前提で進めないでくれる?」
はらはらする私の隣で強引に会話を切り上げた松隆くんは、最初に宣言した五分が経つ前にペットボトルを置いて立ち上がった。月影くんはその姿を楽しそうに見ているけれど、一体なんであんなに煽ったのやら……。
松隆くんはといえば、コートの端まで行った後はボールをついて待っているから、どうやら松隆くんのサーブで試合再開らしい。でもさっきまでろくに見てなかったせいで松隆くんのサーブが凄いのかどうかもわからないや……。
なんて呑気に眺めていると、笛の音が鳴った次の瞬間──パァンッ、と軽快な音と共に何かがコートの中を横切った。
何が起こったのかよく分からず、「ん?」と首を傾げながらこっそり視線を動かす。でも月影くんにはバレていた。
「サービスエースだな」