第三幕、御三家の矜持
 ポーン、と松隆くんの手の中にボールが戻る。月影くんは大して興味もなさそうにいつも通りの声音で教えてくれたけれど、「フィフティーンラブ」とコールする審判の声は心なしか震えていた。

 そして再び、バシュッとでも聞こえてきそうな速さでコートを縦断するボール。鹿島くんのラケットが辛うじて拾うもレシーブはネットに引っかかった。松隆くん派が黄色い歓声を上げる。

 そして再びボールを受け取る松隆くんの、目。


「ちょっとツッキー……めちゃくちゃ怒ってるじゃん、松隆くん」

「あぁ、鹿島より下になると口にすればああなることは目に見えていた」

「散々煽ったツッキーもツッキーだけど、どんだけ負けず嫌いなのあの王子様……!」


 殺気立った松隆くんの目は冷ややかにギラついていた。松隆くんの周りだけ気温が十度は低そうだ。でも月影くんの目は相変わらず興味なし、淡々と「あのくらいやる気を出したほうがアイツのためなんじゃないか?」なんて無責任な発言をしている。


「これで松隆くんが負けたら拗ね続けること間違いなしじゃん!」

「アイツはそういう面倒臭いヤツだ、無視しておけばいい」

「無視できるのは幼馴染の特権だよ! 私は怖くて無視できないよ!」

「問題ない、先程の激励は上手く作用している、ラブゲームだ」

「あれ激励だったんだ! 煽りにしか聞こえなかったんだけどな!」

「アイツはただの激励を受け入れるほど素直ではないからな」


 もう何度思ったことか、さすが幼馴染。というかお互いのことを理解りすぎてて気持ち悪い。

 ただ月影くんの煽り──激励は確かに功を奏している。鹿島くんのサービスゲームでも鹿島くんのほうが苦戦して見えた。


「……これで松隆くんがこそこそ練習してたら健気だよね」

「していたぞ」

「……なんで知ってるの」

「わざわざ遠くまで行って練習しているのをうっかり見つけてしまったからな」


 “うっかり”という言葉に感じるそこはかとない白々しさ。土日の付き合いが急に悪くなった松隆くんを桐椰くんと月影くんが尾行している姿は目に浮かんだ。私は白い目で見つめるけれど、試合を観戦している月影くんは満足そうだ。


「前回鹿島に負けたときは本当にショックを受けていたからな。まだ勝負は見えないが、火が付いたようで何よりだ」

「月影くんってツンデレだよね」

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