第三幕、御三家の矜持
 その通りだ。バスケ大好き好青年です、みたいな見た目の鳥澤くんが不良と関係あるわけがない。仮にあるとしたら、それは幕張匠に扮した私自身と関わりがあったことになる。それでも私と幕張匠の噂はあくまで一時的なものに過ぎなかったし、現実には私と幕張匠は同時には存在していない。つまり幕張匠が絡むなら鳥澤くん自身が不良であった必要が生じてくる。そうなると最早私とは無関係だ。それでもなお中学で私を知っていたというのなら、松隆くんの言う横恋慕云々ではなくダイレクトに私自身を知っていたことになる。松隆くんに嘘を吐いているせいで、頭の中に浮かぶ構図と口にする構図とを区別しなければならず、我ながらややこしい。


「じゃあ……裏を読んで、罠にしては分かりやす過ぎるから罠じゃないと私達が踏むことを狙って敢えて分かりやすい罠を仕掛けた……」

「妥当といえば妥当。ただ、じゃあ鳥澤に何ができるんだ、って話もあるんだよね」


 要は、例えば鹿島くんと違って生徒会を牛耳る学校の権力者なわけでもないし、ということなんだろうけれど、その言い方のせいで妙に棘のある反語的表現に聞こえてしまう。私が鳥澤くんと歩いているのを見て脅迫まがいのことをしたように──こう考えるのは自惚れかもしれないけれど──御三家の仲間に手を出されたときの松隆くんはやや理性が外れる傾向にある気がする。そもそも松隆くんにとっての私は仲間とはまた少し違うと言うべきかもしれないけれど。


「罠なのかそうじゃないのか……いずれにせよ面倒な時期に仕掛けてきたもんだよ」

「え? 何が面倒なの?」


 体育祭で特別な役割が与えられているわけでもないのだから、特別面倒な時期だというわけではないはずだ。中途半端だのなんだのを問題にするとしても、新学期早々とはいえキリが良いといえば良い。

 諸々の疑問を表情に出せば、松隆くんは「まぁ……色々とね」と言葉を濁した。先程月影くんが珍しくパソコンを立ち上げていた様子も思い出す。


「……生徒会役員選挙との関係?」

「……まぁね。心配しなくても桜坂に無茶はさせないよ」


< 25 / 395 >

この作品をシェア

pagetop