第三幕、御三家の矜持
 審判のコールを聞いている様子だと、試合は五対四で鹿島くんがリードだ。ゲーム内カウントも的にも、二セット目は鹿島くんがとってしまうだろう。となると三セット目に突入か……。試合が終わるまでここにいると、四組の試合は始まってしまう。松隆くんの試合をずっと見ているのも、なんだかな……。

 そうこうしているうちに、松隆くんが五ゲーム目、六ゲーム目をとった。戻ってきたときは鹿島くんがリードしていたというのに、意外と試合の進みが読めない……。因みに松隆くんと鹿島くんの疲労度は同じくらいだ。ただ、鹿島くんのほうが後がない分、気合いの入れ方みたいなものは違うのかも。

 次のゲームが始まる前にコートが変わり、松隆くんは私達の前に現れる。無言でペットボトルを差し出すと、目を丸くした松隆くんはちょっとだけ無愛想に「どうも」とだけ返事をして受け取った。


「どうだ、調子は」

「別に」


 申し訳程度にペットボトルに口をつけるだけで、月影くんの冷やかしにも短く答えて松隆くんはコートに戻る。休憩時間はルールに厳格に則ってるわけじゃないんだからもう少しいればいいのに、と思うけれど、あと一ゲームとれば勝てる場面でぴりぴりしているんだろう。鹿島くんの横顔もあまり見ない無表情だ。


「さて、では俺は行く」


 私が買ってきたペットボトルを掴み、月影くんは立ち上がった。無言で見上げると平淡な目が見下ろしてくる。


「今日も帰りは菊池か」

「……ううん、今日は桐椰くんが待ってろって」

「……そうか」


 一拍の後に短く返事をして、月影くんはコートを出て行った。まるで磁石のように女子の一部がその数メートル後ろをついていく。何度見ても奇妙な光景だな……。

 視線を再びコートに戻す。カウントは十五対四十で松隆くんが負けている。あと一点鹿島くんが決めたらタイブレークに突入──夏のクラスマッチと同じ状況になる。ここで一点取られたからといって負けるわけではないけれど、このゲームをとって鹿島くんに圧勝してくれたらどれだけいいか──。見守る中、松隆くんのサーブからラリーは続く。あと一点をもぎ取ろうとする鹿島くんの横顔は普段の様子に似合わず苦しそうだ。松隆くんだって、普段の余裕そうな表情を掻き消して、唇を強く引き結んでいる。見ているこちら側まで緊張して拳を握りしめてしまった。

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