第三幕、御三家の矜持
 君ら……? 私と松隆くんを指しているのだとしたら、やっぱり鹿島くんは個人的に松隆くんと確執がある……? 眉を顰めるうちに、「アドバンテージサーバー」とコールがかかった。

 これで点をとれば松隆くんの勝ち──。ぐっと拳を握りしめて念を送る。鹿島くん負けろ。っていうか松隆くん勝って。昼過ぎに見た鹿島くんの余裕の笑みが悔しそうに歪む顔を見てやりたい。……私性格悪いな。

 最後の一点がかかっていても松隆くんのサーブは乱れることなく、今まで見たのと同じような速さで綺麗に入る。鹿島くんのレシーブは先程と違って残念ながらきちんと返り、松隆くんが深いロブを返す。ベースラインで構えていた鹿島くんはストロークで返して、それに対して松隆くんも力強くラケットを引いて──。


「あ……」


 振り抜かれる瞬間、ガクンと速度が落ちた。思わず声が零れたのは私だけじゃないはずだ、少なくとも顔では鹿島くんだって完全に不意を突かれた。

 ポテン、と、今までの激しいラリーの応酬からは想像もできないほどに大人しく、ボールはネット際を転がる。

 ピーッ、と笛が鳴った。


「ゲームセット、アンドマッチウォンバイ──松隆」


 松隆くんはくるっと掌でラケットを回して、まるで余裕でしたかのような態度をとる。松隆くん派から爆音のような歓声が上がり、鹿島くん派からの声は掻き消された。はぁ、と溜息をついた鹿島くんは松隆くんに合わせてネットまで歩み寄る。


「お前はもっと派手好きだと思ってた」


 夏のクラスマッチのときには聞こえなかった二人の会話が、今日は聞こえる。ということは、あの時は聞こえないように話してたのかな。


「そうだね。スマッシュとかで決めるほうが好きなんだけど、勝利優先だし」


 握手のために手を差し出した松隆くんは、「何より」と続けながら不敵に意地悪く笑う。


「ドロップボレーでお前の間抜け面を拝むのも悪くなかった」


 ……やっぱり松隆くんはどこまでも顔面詐欺の腹黒王子だ。性悪なコメントに鹿島くんは無言で返し、手を離した瞬間に踵を返した。松隆くんは「ざまあみろ」とでも言いそうな目をその背中に向けた後、こちらへやってくる。


「松隆くん! さすがですね! 雪辱はらしましたね!」

「同じ相手に二回も負けるわけないだろ」


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