第三幕、御三家の矜持
 とか言いつつ、六ゲーム目をとった後は完全に殺気立ってたじゃないですか。絶対に負けられないと言わんばかりで余裕なんてなかったじゃないですか。アイスの話振る直前まで完全に神経張りつめてたじゃないですか。……とは言わずにおいた。代わりに、下僕よろしくタオルと飲み物を差し出す。女子の目は痛いけどいまは松隆くんに尽くすことにしよう。


「あれだね、クラスマッチテニスの部優勝ってよりも鹿島くんに勝ってるのがいいよね! ざまーみろって感じだよね!」

「主観入りまくりじゃん。まぁそうだけど」


 ひょいと私の手からタオルを受け取った松隆くんは「あっちぃ」と呻くようにぼやきながら首や背中の汗を拭う。もう一つ受け取ったペットボトルも、水分補給するよりも首筋に当てている。


「駿哉は試合行ったのか」

「うん。あ、だから見に行かなきゃ」

「……遼は?」

「多分いま試合してると思う。優勝チームに御三家が全部いたら面白いよね。前回は生徒会だったから逆圧力みたい」

「実力だよ」

「失敬しました、リーダー」

「アイスおごってね」

「松隆くんそういうとこ庶民派だよね」


 お金持ちなんだからコンビニのアイスひとつやふたつ、どうでもよさそうなのに。コートから離れる松隆くんのために空のペットボトルやジャージを抱えて準備をする。そんな私の動作が、なぜかじっと見られている。


「……あの、なんでしょう、リーダー」

「……夏休みの初っ端」


 徐に切り出されたその時期にあったイベントは、雅の事件と別荘の事件との二択だ。一体何の話をされるのか、ギクリとして一瞬手を止めてしまう。


「……菊池にキツイこと言ったけど」

「……そっちですか」

「……悪かったよ」


 思いもよらぬ言葉に、驚いて顔を上げる。でも、視線の先の顔は、タオルで口元を覆って、目を逸らしていた。


「……悪かったって」

「菊池が死ねばよかったって言ったけど。菊池がどう脅迫されたのかは知らないし、訊く気もないけど、結局桜坂を庇うためだったんだろ」


 藤木さんを問い詰めたときに、思わず私が口走ってしまったことだ。そのせいで何かバレていやしないか、そう考えるだけで緊張して喉が締め付けられる。


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