第三幕、御三家の矜持
 バットを構える桐椰くんをぼーっと眺めながら、やっぱり、覚えてしまうのは疎外感だ。いや、そんなものは御三家を見ているだけで当然に覚えてしまうもので、ただ見ないふりをしているだけだけれど、こういう桐椰くんを見ているときこそ殊更に強く覚えてしまって、意識せずにはいられない。

 「かっ飛ばせー、きーりーや!」と二年四組とその他の男子の声が絶え間なくかけられる中、相手チームの「頑張れエースー!」「ナイスピー!」との声援も聞こえる。相手チームは一年生だ。決勝戦が一年生と二年生になってしまうのは、秋になると部活を引退して(なま)り始めた三年生が多いからなのだろうか、なんて。

 相手の一年生が投げたボールに、桐椰くんは好戦的に応じる。カンッと軽快な音と共にボールは転がるも判定はファール。桐椰くん側はポジティブにボールは見えてるとか余裕で打てるぞと声を張り上げ、一年生側もまたポジティブに大したことないだのまぐれだの煽る。

 そんな中で投げられた第二球。綺麗な弧を描くそれが──カンッと、まるでカウンターのようにバットに打ち返された。わっとこちら側の歓声が上がる前に桐椰くんの足が地面を蹴り、木之下くんが走り出し、バットがカランッと転がり、一年生側の応援が増す。守備の一年生が桐椰くんの打ったボールをなんとか拾うも、ボールが宙に飛んだときには桐椰くんが三塁を踏み、木之下くんがホームに戻っていた。二年四組からは当然の歓声が上がり「きりやかっこいー!!」と男子の声が聞こえた。次の打者は船堂くんで、責任重大で大変そうだなーなんて眺めてたらなんとも綺麗なフォームで文字通りボールをかっ飛ばした。どよめく一部女子と「さすが元野球部!」という納得の声。そっか、船堂くんって経験者なのか。というか決勝まできてるんだからかなりいいメンツが揃ってるのは当然か。それは一年生も同じはずだけど。

 なんて納得してるうちに船堂くんのホームランが決まる。桐椰くんがホームに戻った後も黄色い歓声が続くのだから、どうやら桐椰くんだけじゃなくて船堂くんにも声援が向けられているらしい。球技大会マジックかな、なんて失礼なことを考えながら、選手とハイタッチする桐椰くんを目で追う。少し汗ばんだ茶色い髪はくしゃくしゃで、額にも汗が浮かんでいるのに、その顔は楽しそうな笑顔だ。


「……桐椰くん、ああしてると柴犬っぽいよね」

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