第三幕、御三家の矜持
 向けられたのは、松隆くんが何かを企むにしてはやや怪しさに欠ける笑みだった。無茶はさせないということは少なくとも一役買ってもらうつもりはあるのだろうか。そもそも、生徒会役員選挙なんてそれっぽい理由を私が口にしたのをいいことにただ乗っかっただけの可能性もある。


「取り敢えず、当面桜坂にしてほしいことは、鳥澤との関係を逐一俺達に報告することくらいかな」

「……え、逐一?」

「逐一。何、何か困ることでもある?」


 思わず聞き返してしまったけれど、さも当然のように繰り返される。それどころかそんな問い詰め方は完全に浮気を疑う彼氏の言葉だ。例によってそんなことは口が裂けても言えないけれど、松隆くんの目がそうとしか見えない。


「いえ……、困るというか……その、鳥澤くんにもプライバシーというものが?」

「御三家に手を出した時点でそんなものはない」

「横暴! 多分鳥澤くんもそこまでは考えてなかったんじゃないでしょうか!」

「考えてない鳥澤が莫迦なんだ」


 とことん鳥澤くんが不憫だ。隙あらば人権を失ってしまう者同士意気投合してしまうかもしれない。


「ま、そういうわけだから。体育祭は体調だけじゃなくて鳥澤にも気を付けてね」

「……畏まりました」


 先程の、体育祭だからどうというわけでもないし、特別面倒な時期に告白されたわけではないだろう、なんて思考を撤回しよう。イベントに重ねられるだけで面倒くさい。しかもよりによって松隆くんと──下手したら桐椰くんともこじれている話題に第三者まで介入してくるとは。鳥澤くんの真意が何にあるかは分からないけれど、罠だとしたら告白という手段を選んだだけで十分有意義だ。はぁ、と真夏の空気にお似合いの重苦しい溜息を吐いた。
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