第三幕、御三家の矜持
 お陰で、のろのろと応援席を離れることになった。実際、日向にずっと立っているのは疲れる。特に今日は真夏日だし。足取りも重く木陰に向かおうとして──ジャージの上着を羽織ってこちらへ歩いてくる鹿島くんに気が付いて足を止めた。鹿島くんも私に気が付いたけれど、止まったのかそうでないのか分からないくらいの一瞬だけ立ち止まって、こちらへ歩み寄ってきた。

 普段ならここで君子危うきに近寄らずとするところだけれど、今いるのは松隆くんに惨敗した鹿島くんだ。私が勝ったわけでもないのに、どうしてか少し優位に立っている気がしてしまう。


「……どーも、我らがリーダーに負けた生徒会長」


 分かりやすい挑発を受けた鹿島くんの目は、当然冷ややかになる。そのせいか、擦れ違う前に今度は本当に立ち止まった。


「事実だとしても君に言われる筋合いはないな」

「これは失礼しました。試合終わって暫く経つけど何してたんですか」

「忘れ物を取りにね」


 鹿島くんの視線は一瞬だけ袖に動いたから、その上着が忘れ物だったとでもいうんだろう。確かに、それならラケットも何も持ってないのは納得がいく。


「……そう」

「そんなことより、桐椰の試合は見ないんだな」


 次に、視線はグラウンドの中心に移る。口が「確かに今は桐椰は出てないか」と動いたけれど、その端は妙に楽し気に吊り上がって見えた。


「……別に、もう優勝決まったようなもんだし」

「ふぅん。つまり、君は御三家の勝敗に興味があるから見てただけだと?」

「……だったらなにか」

「君がどうあれ、松隆と桐椰にとっては意味は違うんじゃないかって言ってるんだよ」


 否めず睨めば、鹿島くんの口角はますます吊り上がる。


「桐椰から見れば、桐椰の試合には二年四組の勝利以上の意味が君の中になかったってことになる。逆に松隆の試合は純粋な松隆の勝利に意味があったのにね」

「……それに問題なんてないでしょ」


 寧ろ、そうなるほうがありがたいまである。桐椰くんがそれで私に愛想を尽かせばいい。松隆くんは……、最近、告白をなかったことにするなんて言葉は嘘だったんじゃないかと疑ってしまうほどの言動ばかりだけれど(実際月影くんは策略だなんて評したし)、──甘えてしまえばいい気がした。

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