第三幕、御三家の矜持
 目をいっぱいに見開くと同時に首を解放され、激しく咳き込み、()せ返る。息苦しさでぼろぼろと涙が零れて、お陰で、鹿島くんの乱暴な口調に違和感を抱く余裕がなかった。


「ここまでお膳立てしないと分からないとか。分かってたけど目を逸らしてたとか、そんなくだらないこと言ってくれるなよ」


 そのまま、立ちすくむこともできずにただ咳き込む私を取り残し、鹿島くんは立ち去った。

 鹿島くんに会うたびに、一つ、また一つとピースがはまっていく。“分かってたけど目を逸らしてたとか、そんなくだらないこと言ってくれるなよ”なんて軽蔑の言葉はきっと正しくて、私はどこかで“本当”を追求することを怖がっている。

 お母さんのお墓参りに行った日に、松隆くんのお父さんに会ったことを、私はまだお父さんに伝えていない。その話を出せば、お父さんはきっと教えてくれるはずだ。そうでなくても、松隆くんのお父さんは教えてくれるはずだ──わざわざ同級生だったと教えてくれたのだから。

 それをしないのは、知りたくないからだ。知ってしまったら──なんとなくだけれど──御三家との関係が壊れてしまう気がするから。

 陰鬱な気分になっている私の背後で、不意にわっと一際大きな歓声が上がる。振り返ると、桐椰くんと船堂くん達が肩を組んで何やら楽し気に話していた。得点は見えないけれど、多分また二年四組が得点したか何かだ。一年生の様子も見る感じ、もう戦況は動かないだろうな……。

 そのままグラウンドに背を向けて、とぼとぼと校舎へ戻った。閉会式予定時刻まではまだ三十分以上あることを確認して、荷物を手にシャワーを浴びに行く。第六西のシャワー室へ行くと松隆くんと遭遇しそうなので、普通の生徒用のシャワー室を借りた。桐椰くんと月影くんがまだ試合をしているお陰か、シャワー室は空いていた。シャワーを浴びて出るくらいで閉会式十分前、御三家が勝ち進んでくれていて丁度良かった。


「あれー、亜季じゃん」


 体育館へ向かっていると、片手に紙パックのヨーグルトを持ったふーちゃんがいた。様子を見る限り、シャワーはまだ浴びていないようだ。


「もうシャワー浴びたのー?」

「うん、随分前に試合は終わっちゃったから。ふーちゃんはずっと勝ってたの?」

「まさかぁ。私はインドアだもん、すぐ負けちゃったよ」


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