第三幕、御三家の矜持
 それなら着替える暇があったのでは……と首を傾げたけれど、ふーちゃんは紙パックにストローを差しながら「そういえば御三家は全員優勝したねー」と話題を変える。


「あ、月影くんも勝ったんだ」

「見てあげなかったの?」

「んー、松隆くんのは見たんだけど、桐椰くんは勝ちそうだったし……月影くんは桐椰くんと試合の時間被ってたし……」

「あー、松隆くんは鹿島くんと試合だったんだもんねー。松隆くんの圧勝だったんでしょ?」


 その口調からして、ふーちゃんは松隆くんの試合は見ていないようだ。


「圧勝……ではあるのかな。一ゲーム内のスコアは結構競()ってたよ」

「そっかぁー。本当、御三家の王子様はなんでもできちゃうね、二次元みたい」


 ものすごく興味なさそうに口先だけ褒めている……。ここまで松隆くんに興味ない女の子も珍しい。見た目は松隆くんとお似合いの美少女なのに。因みに、その手にある紙パックは全く似合わない。


「でもこれで秋の行事は大体終わっちゃったよねー。合唱コンクールはあるけど、あんまり楽しくないし」

「あんまり盛り上がらないの?」

「うん。ほら、球技とかクラスマッチはなんとなく空気に酔えちゃうけど、合唱コンクールはそうならないんだよねー」


 確かにそうなのかもしれない。御三家も鹿島くんもスポーツのほうが得意なタイプだし、あの人達の歌う姿に女子が熱狂するのは──……さすがにない……だろう……。


「そういえば最近鳥澤くんとどー?」

「どー、って……」


 急な話題にどもれば、「いやー、進展あったかなって」と当たり障りのない返事がきた。


「デートはしたって言ってたじゃん? 御三家の尾行付き」

「そうだね……尾行付きだったね……」

「あれ以来お誘いはあったの?」

「一応あったけど……」


 のらりくらりと躱してるなぁ、と思い返す。そうすると鳥澤くんも「そっかー、じゃまた誘うね」で終わってしまうのでよく分からない。月影くんも桐椰くんも、鳥澤くんは別に私を好きじゃないだろうと言っていたけれど……。


「ふーん。まぁ鳥澤くん、奥手そうだもんね。バスケしてる時以外は可もなく不可もなくって感じだし」

「厳しくない?」

「逆に言えばバスケしてるときは完全に良物件なんだよー? ほら、この間も話したけど、そこそこ人気あるし」


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