第三幕、御三家の矜持
 まー御三家のせいで霞んでるんだけどね、という言葉には同情を禁じ得ない。


「やっぱりなー、体育祭の時も話したけど、御三家と付き合わないなら付き合ってみるのもいいと思うけどなー」

「……そうだね」


 結局それは誰にも誠実ではないのだけれど、一つの解決にはなる。


「あ、でもさー、あの人は? あの元カレって噂されてるひと」

「雅のこと?」


 最近学校まで来てくれる雅のことをふーちゃんが認識していてもおかしくはない。実際「かなー? あの髪短くて背が高くて女装似合いそうな顔の!」と返ってきたし、雅で間違いない。というか元カレの噂があるという時点で雅以外の人が浮上したらこちらこそ一体誰の話なのか気になる。


「あれって元カレなの?」

「え」


 そして唐突かつ核心をついた疑問に顔がひきつった。御三家には元カレってことにしたままなんだっけ。それならここでも否定するわけにはいかない。


「元カレですけど……」

「ふーん。なんか意外だね」

「どこらへんが……」

「えー、だって亜季って元カレと連絡取り合うタイプじゃなさそーじゃん」


 あはは、と軽い笑い声でも聞こえてきそうな口調だけれど、それは正しかった。相手が誰であれ、多分その通りだと思う。存外、そういうところは他人が見ていても分かるものらしい。


「元カレと円満だったら復縁しないの?」

「……しないかな」

「ふーん? まぁそうだよねー、円満だとしても別れた理由があるのは変わんないもんね」


 話を振ったわりには、ふーちゃんはあっさりと引いた。首を傾げてみても、何か新しいことを口にしてくれる気配はない。


「ところでさぁ、亜季のその元カレはコスプレとか興味ないのかな?」

「……ないと思うよ」


 それどころか、食いつきを見せていた理由は本当はそれだったんじゃないかとさえ思え始めた。現に一瞬でその表情は残念そうに変わって「えー! 身長あって女顔なんて超貴重だよ!? めちゃくちゃいい素材だよ! 制服で誤魔化してるけど結構細いでしょ! 毛も薄いし!」とまくしたてる。パッと見ただけでは足りないくらいの要素をばっちり確認しているので、多分一目見たときから雅のことをそういう目で見てたんだな。


「……それなら御三家──松隆くんとかにしてもらったらいいのでは」

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