第三幕、御三家の矜持
「だめだよー、あの王子様、そういうお願いは聞いてくれなさそうだもん」


 体育館に着けば、噂の王子様はすぐに見つかった。シャワーを浴びてすっきりした顔で、なんと既に制服にまで着替えている。確かに制服に着替えてる人はちらほらいるけど、松隆くんはテニスの部優勝で登壇するんだから制服は変でしょ……。そう考えて、「決勝が予定より早く終わったお陰でシャワーを浴びて着替える時間までありました」と鹿島くんを嘲笑う表情が頭に浮かんでしまった──けれど、さすがに松隆くんの腹黒さを疑い過ぎかもしれない。現に月影くんも制服に着替えていた。バスケの試合は長引かないだろうに、と首を捻っていたけれど、どうやらサッカーの試合が長引いていたらしいと周りの話で分かった。

 ふーちゃんと分かれて二年四組の列に向かえば、桐椰くんはジャージ姿のままで並んでいた。野球に出ていた男子と楽しそうに話している。結局試合の内容を全部は知らないからその活躍の程度は知らない。船堂くんを見てなかったらMVPばりの活躍だと確信してたけれど……。

 と、私に気付いた桐椰くんと目が合った。


「……もう着替えたのかよ」

「……うん」


 さっきまで桐椰くんと話していた男子は、特に私達の話に聞き耳を立てるでもなく、桐椰くん抜きで話を続けている。お陰で桐椰くんを無視するタイミングを失った。


「……先に帰るなよ」

「……分かったってば」


 今日はやたら送ることに拘るんだから、と半ばうんざりした声で返せば、桐椰くんの眉が吊り上がる。当たり前だ、私のほうが感じが悪い。


「……あのさ」

「……何?」

「……いや。やっぱいい」


 ふい、と桐椰くんの顔は前を向いた。その表情は少しだけ、その焦げ茶色の髪に隠れる。


「……帰りに話す」

「……そう」


 閉会式が始まれば、案の定、御三家と一部生徒会役員とその他一般生徒、とまばらな形で壇上が埋まった。松隆くんはテニスの部優勝だし、月影くんはMVPだし、桐椰くんはMVP兼クラス代表だ。松隆くんは個人競技だからともかく、月影くんと桐椰くんのMVPとクラス代表という違いに性格が表れている気がする。本当に、今日はつくづく桐椰くんの株が下がる 日だ。

 株が下がる──そう感じた後で、ちょっと語弊があることに気が付く。でも正確な表現がどうあるべきかは分からなかった。
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