第三幕、御三家の矜持

 閉会式が終わった後、みんなに囲まれる桐椰くんをおいて先に第六西に向かった。どうせ桐椰くんは第六西のシャワーを使うからここに来るだろう。

 先に着替えておいてよかった、と荷物をソファーの脇に置いて、ころんと寝転がる。そこへ間髪入れないくらいのタイミングでやってきたのは月影くんだ。


「……お帰りツッキー」

「もう着替えたのか」

「桐椰くんの試合も最後まで見なかったからさ。閉会式の前に着替えちゃった」

「そうか」

「ツッキーも着替えるの早いね」

「サッカーが長引いていたからな」

「でも優勝したんだからみんなでわちゃわちゃしたでしょ?」

「しなかった」

「……ツッキーはもう少し社交性を持ったほうがいいよ」

「余計なお世話だな」


 ソファに寝転がっていて見えないけれど、窓側で何やらごそごそと音がする。何してるんだろう、と少し起き上がると、シャツも何も着てない、つまり裸の背中が目に入った。着替え中だ。


「ちょっ、何やってるのツッキー!」

「シャツが裏返しだった」

「ツッキーでもそんなおっちょこちょいするんだね! 一瞬露出狂かと思っちゃった!」

「今までは誰に構う必要もなかったというのに君が来たせいで気を遣う羽目になっている俺達に少しは配慮を見せたらどうだ、痴女」

「痴女じゃないでしょ! 勝手に脱いだの月影くんだよ!!」


 慌ててソファの背に隠れながら、謂れのない罵倒に憤慨した。ツッキーの腰細いなぁ、なんて変態じみた感想をピッピッと振り払うように手を振って「大体一言いってくれたら起き上がらなかったのに!」と文句を口にする。でも返ってきたのは「言わなくても起き上がらないと思った」なんて横着な返事だった。

 そんな着替えを一瞬覗いてしまったせいで、頭の中が一度空っぽになった。さっきまで何を話していたのか忘れてしまって──代わりに、疑問が口を突いて出る。


「月影くんはさ、松隆くんのお父さんと、私のお父さんとお母さんが全員同級生だっていうの、何かおかしいと思う?」

「何?」


 訝し気な声を聞いて、そういえば月影くんが気づいているのかどうかは知らないままだったと気付く。


「……私ね、お父さんが不倫してた相手との子供なんだけど」

「……あぁ」


< 268 / 395 >

この作品をシェア

pagetop