第三幕、御三家の矜持

(二)欺けない彼の目

 天気予報通りの快晴を迎えた体育祭の日は、文化祭の日と違ってみんなのテンションがそう高いわけではなかった。教室に集まって簡単なホームルームを済ませた後、更衣室でジャージに着替えて、ぞろぞろとグランドに向かう。当然のことながら着替えは男女別なので桐椰くんはおらず、一人で廊下を歩いていると、背後からポンッと肩を叩かれた。


「やーっほぅ、亜季」

「あ、薄野(すすきの)──えっと、ふーちゃん……」

「亜季も赤組なんだねー、一緒じゃーん」


 相変わらず平安時代の御姫様かと見紛うほど綺麗な黒髪を靡かせた薄野さん、もといふーちゃんはご機嫌で私の隣に並ぶ。その黒髪はポニーテールに結ばれ、ハチマキがリボン代わりになっていた。なるほど、ハチマキは見えるようにつければいいとしか言われてないからそういう使い方もありなのか、なんて勝手に納得してしまった。


「御三家はー、桐椰くんも赤組か! いいね、絶対桐椰くん袴似合うし」

「それみんな言ってるよね。そんなに楽しみかな」

「楽しみだよー。だって御三家は存在が二次元みたいなビジュアルしてんだよ? 恋愛対象になんかこれっぽっちもならないけど眼福ですよ眼福」


 ふふふー、と薄野……ふーちゃんはご機嫌だ。私は特別親しくもない人をニックネームで呼ぶのに慣れなくてむずむずしているけれど、ふーちゃんにその様子はない。それどころか「亜季は何の種目出るの?」と慣れた様子だ。


「選択は障害物競走だけ。足速いわけじゃないからリレーも出ないし、あとは二年女子共通と女子共通だけだからトータルで三つ」

「おー、あたしと一緒じゃーん。まぁ体育祭なんてそんなもんだよねー、面倒くさいし。図書室も一応立入厳禁だしー、やだなー」


 そういえばふーちゃんは漫画を置きたいがために図書役員を務めてるって言ってたっけ……。私は図書室には行ったことないのだけれど、蔵書は充実していて結構使い勝手がいいのだと月影くんが話しているのを聞いたことはある。ただ月影くんが読むものが大学図書館にあるようなものばかりなので、結局月影くんご所望の本は取り寄せになるのだとかなんとか。しかも月影くんには第六西という最強に居心地のいい場所があるから、図書室に通う必要はそうない。
< 27 / 395 >

この作品をシェア

pagetop