第三幕、御三家の矜持
 でも月影くんが気にしているのはそれとは別のようだ。首を傾げ続けていると──その油断している隙を狙って月影くんが逃げようとしたのでもっと強くカバンを掴んだ。迷惑そうな目が容赦なく返事をする。


「あの、ほら……桐椰くんのためだと思って!」

「遼に何かする予定でもあるのか」

「いやないんですけど……でも一緒に帰ってくれても……」

「用事があると言っている」

「初耳ですけど!?」

「いい加減に離せ」

「……ねぇツッキー」

「…………」


 はぁー、と月影くんの口から重い溜息が零れた。次いで私の隣に腕を組んで腰を下ろしてくれた。スマホを片手に持ってはいるものの、ちゃんと一緒に帰ってくれる模様。ツッキー……!

「さすがツンツンデレデレツッキー……!」

「妙なキャッチコピーをつけるな」

「だってさー、用事あるから無理って言ったのに一緒に帰ってくれるもんねー」

「いや用事はある」

「またまたー」


 そんなこと言ってー、と手ぶりをつけると、月影くんからはスマホ画面が突き出された。画面はLIMEで相手は雅。


「……『一度学校』って……」

「今日は勉強会の予定だったんでな」


 月影くん、雅に勉強教えてるの……!?

 さも当然のような顔で語られるけど、確かにそういえばこの間の雅、英語を教えられてるときに諦めろって言われたなんて話してたっけ。てっきりそれっきりだと思ってたのに継続して教えてるの……?

「え……、それで雅の勉強はいかがですか……?」

「最近中学二年生になった」


 おかしいな、そうなると雅はこの間まで中学一年生だったことになるんだけど……。顔で疑問を表現してみせれば「最初は小学六年生かと思った」と返ってきたのでもっと酷かった。


「……中学二年生ってことは、その、一次関数はできるようになりましたか……!」

「まだできないな」

「……。……あ、ていうか『一度学校』って」

「帰りに図書館に行く予定だったが君が引き留めるので一度学校に呼んだ」

「ちょっと待って?」


 つまり今日の帰り道は桐椰くんと月影くんと雅と私……? とんでもない組み合わせに顔が引きつったところで、まさかの第六西の扉が開く。


「あれ、まだいたんだ」

「リーダー……!」


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