第三幕、御三家の矜持
 また胸倉を掴み合う二人。なんで歩いてるのに仲良く同時に立ち止まって胸倉を掴めるんだろう。月影くんと桐椰くんはやっぱり「実は人間の目でオフサイド確認すんのって難しいんだってー」「錯覚ということか?」「うん、この間テレビでやってて」なんてサッカーの話を続けている。


「なー、本当なんでこのメンツで帰ってんの? 月影だけでよくね?」

「お前と駿哉と桜坂の組み合わせこそ意味分からないだろ。少し考えて発言しなよ」

「松隆って普段そんな丁寧口調なの? なんかキャラ作ってて怖いつーかキモイ」

「お前の馬鹿キャラは本当に馬鹿にしか見えないからやめたほうがいいと思うんだけど、ごめん素なんだよね?」

「だからいい加減にしてよ!」


 隙あらば掴みかかる二人、実はわざとやってるんじゃないかと思えてきた。無理矢理二人を引き離して物理的に間に収まる。松隆くんが迷惑そうな顔をしたし雅は嫌そうな顔をしたけれど、それなら喧嘩しなければいいのにって話だ。


「……で、アイツなんで茶髪なの? 泣く子も黙る不良はやめたの?」


 月影くんと桐椰くんは二人で夢中になって話しているので、雅がこそっと声を潜めて訊ねる。さぁ、と肩を竦めると、隣の松隆くんが「生徒会の副会長になったからだよ」と建前を返した。


「え、マジ? じゃあアイツ権力者じゃん」

「お前の安直な頭は疲れと無縁そうでなによりだね」

「ちょっと松隆くん」

「御三家兼生徒会副会長かー。どーりで最近余計にモテてるわけだよな」


 なんだと……? 私が眉を顰めるより、松隆くんが雅の胸倉を掴むほうが速かった。


「その話、詳しく手短に話せ」

「なんで松隆くんはそんな喧嘩腰なの? いつもそんなんじゃないよね!」

「頼む態度あんだろおい」

「大体の人は痛い目見る前に頼み事聞いてくれるんだけど、おかしいな」

「おい亜季! コイツ多分王子じゃなくてヤクザだぞ!?」


 松隆くん……似非王子もここまで来ちゃったか……。私には止められないですと首をふるふる振ると、雅は「とりあえず離せ!」と松隆くんの腕を振り払う。


「でもお前ら、よくあることなんだろ? 急に連絡先渡されたりさぁ、カメラ構えた女子に囲まれたりさぁ」

「お前は俺達をなんだと思ってるの? よくあるけど」

「それヤなヤツだよ、松隆くん」

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