第三幕、御三家の矜持
 にっこりと笑う松隆くんの目に、笑顔に似つかわしくない感情が見える。


「妹さん、そろそろ帰る時間かな?」


 ……頼むからまだ帰ってこないでほしい。

 雅は色々と情報が不足してるので状況を察せず、頭の上に“?”マークを浮かべている。でも松隆くんの中では間違いなく結論が出てるし「菊池、今度何か奢ってやるから、この話は遼にするなよ」と口留めまでしている。

 そこまで聞き出したところで、桐椰くんだけが追い付いた。どうやら月影くんは本の予約をするので先に帰っててくれとのことらしい。松隆くんの予想が半分当たっていた。


「え、じゃあ俺の勉強会は?」

「コイツの家まで行ったら図書館まで戻れって」

「お前ら本当に人使い荒いよな!」


 ごめんね雅……。心の中で謝って歩き出せば、なぜか自然に私の隣は雅で、桐椰くんと松隆くんが隣合う。桐椰くん、私と話そうとしないけど、わざわざ帰りに送るって言ったのはどういう意図が……? 警戒するだけ損したかな。

 謎の組み合わせでの帰り道も、一体どうなることやらと思っていたのに、松隆くんが雅から桐椰くんと優実の話を聞いた後は掴み合いもない。代わりに、あんなに帰りは送ると宣言していた桐椰くんが、曲がり角で急に立ち止まった。


「えっと……お前ら二人いるなら、俺いなくてもいいから、ここで……」


 妙に歯切れも悪く、そさくさと逃げるように、松隆くんと雅の返事を待つこともなく「じゃ!」といなくなった。雅は目を点にしてその背中を見送る。


「なんだあれ。桐椰ってああいう変な行動に走るヤツなの」

「アイツの奇行はないことはないけど、思い当たることはあるよね。ねぇ桜坂?」

「……なんか今日の松隆くん、意地悪だよね」


 松隆くんの目がギラついて見えたのは気のせいじゃあるまい。さっと目を逸らし、残る帰り道を進む。幸いにも家の周りで優実と一緒になることはなかった。ほっと胸をなで下ろす。


「二人とも、帰りは喧嘩しないでね」

「大丈夫だよ、別々の方向だから」


  同じ方向に帰ったら喧嘩するんだな……。雅が「そうじゃん俺戻らないといけないんじゃん!」と嘆くのを聞いて、月影くんが勉強会をしてくれていることに感謝する。いや、そもそも勉強会がなかったら雅は今日は一緒に帰ってないのか……。


「じゃあね、送ってくれてありがと──」


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