第三幕、御三家の矜持
 史上最大級に妙な帰り道だったな、と帰路を思い返しながら玄関扉を開けようとして、ぐん、と思った以上に開いた扉に「えっ?」と声を上げてしまった。驚いて扉から後ずされば、慌てた顔の優実がいた。


「桜坂?」


 マズイ! 頭の中で警鐘が鳴る。松隆くんがどういうつもりか分からないけど、優実の顔を見ようとしていたことは確かだ。


「何してんの優実……!」

「え、いや、その、話し声が聞こえたから、お姉ちゃんかなーって……」


 へへ、と困ったように笑って見せる顔に激しく首を横に振った。松隆くんが見る前に早く扉を閉めないと!

「……あ、御三家の松隆先輩……」


 ……と思ったけれど、時すでに遅し。優実の視線につられて振り返れば、松隆くんと雅は優実の顔が見える位置に立っていた。雅が「あ!」と声に出そうな顔をしているから、きっと桐椰くんと話しているのを目撃されたのは優実だな……。そして松隆くんは今雅の目撃の裏をとったな……。


「……いいよ優実、あの二人は気にしないで」

「え、あ、うん」


 ここで一度家を出て松隆くんに優実を確かめたがった理由の確認をとるべきか否か……。少し悩んでもう一度後ろを振り返ったけれど、松隆くんは雅と話しているだけで、こちらを向く気配はない。ということは私は用済みなんだろうか……。


「……いいよ、優実、閉めよう」

「いいの?」

「いいいい」

「ふーん……」


 不審がる優実をぐいぐいと家の中に押し込んで、扉を閉めた。そっと外を見ると、二人はもう逆方向に歩き出している。雅が見た相手を確認しただけだったのかな……。


「お姉ちゃん、何してたの……? なんか新しい人もいるし……」


 雅のことだ。


「ん、なんでもないよ。お母さん、出かけてるの?」

「うん、今日は町内会の用事だって。あ、そうだ、それでさっき丁度電話があったんだけどさ」


 何も起こらなかったことに、今度こそ安心したのに。


「お兄ちゃん帰ってくるって。今度、週末に」
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