第三幕、御三家の矜持


「挨拶だよ、挨拶。宛名は印刷してるけど裏に手書きで挨拶文書いてるんだよ。めちゃくちゃ量が多いからこの時期からしないと間に合わないんだと!」


 どうりで最近昼休みも放課後も見かけなかったわけだ。正確には、昨日の放課後は第六西にいたのだけれど、ソファで丸まって寝ていたので話してはない。


「あの野郎……年賀状何通あると思ってんだ……。しかも来年の春は暑中見舞いだとよ……!」

「腱鞘炎には気を付けてね」


 ……申し訳ないけれど、桐椰くんが忙しいのは正直ありがたい。球技大会の日以来、桐椰くんは山のように積みあがった生徒会の仕事を処理してばかりだ。お陰で私と桐椰くんは休み時間にしか話してない。


「……大体、来月の会報のネタが──」


 桐椰くんの愚痴が続こうとしたとき、カラカラと窓が開いた。ギョッとして私が振り向けば笑顔の鹿島くんがいる。


「桐椰、今日の放課後、生徒会室な」

「……それ俺以外もいるんだろうな」

「南波は部活が終わってから来る。代わりにお前は早く帰るんだろ?」


 桐椰くんの右手がギリリッと音を立てそうなくらいに握りしめられた。なんだろう、桐椰くんは時短勤務ってやつでもしてるのかな。


「お前は副会長だろ、桐椰」


 なんで俺が、とでも言いそうな桐椰くんに釘を刺すように言い放ち、鹿島くんは私を一瞥して立ち去った。


「……桐椰くん、なんで副会長になったの」

「やりたいって思っただけだって言ってるだろ」


 顔が欠片もそう言ってないんだけどな。


「まぁ桐椰くん、放課後もお勤め頑張ってください」

「……だからお前最近何してんの」

「だからぁ、私はいつも通りやってますよ」

「帰り、菊池と帰ってんだって?」

「正確には松隆くんも一緒ですね」

「……何話してんの」

「それが最近和解したらしいんだよね」


 まったく心当たりはないけれど。そう付け加えると、「ふーん」と桐椰くんは首を傾げる。その眉間の皺は依然として深い。

< 278 / 395 >

この作品をシェア

pagetop