第三幕、御三家の矜持
 それもそうだ、お互いに毛嫌いしてたあの二人が、和解したとはいえ話すことなんてないと思うのが自然だ。実際、帰り道で二日に三回は胸倉を掴みあっている。因みに雅が「松隆って意外と本命にモテなさそう」とうっかり口走ってしまったせいで松隆くんの容赦ない蹴りが炸裂した。速すぎて止められなかったし、私が止められることじゃなかったのでで何も言わずにおいた。

 それから、桐椰くんは何か言いたそうにうずうずしていたけれど、教室内が比較的静かなせいか、何も言わない。


「あ、全然話変わるんだけどさー」

「ん」

「第六西って暖房つくの?」

「つくに決まってんだろ。腐っても校舎だぞ、あそこは」

「でも誰もつけないよ?」


 十一月で北向きの部屋となればそこそこ寒い。それなのに誰も第六西で暖房をつけようとしないので設備としてないのかと思った。松隆くんなんて膝掛まで引っ張り出しているのに頑なに暖房をつけようとしない。

 すると桐椰くんは少し考え込んだ。


「……分かった」

「え、なにが?」

「フィルターまだ掃除してねーんだ」

「えー早くしてよー寒いよー」

「お前らがしろよ! なんで俺が掃除しないとお前らしようとしねーんだよ!」


 そうか、御三家の保護者・桐椰くんが寒くなってから第六西に来ないせいか……。床掃除は適当に三人でやるけれど、ちょっと面倒に感じてしまう部分は「どうせいつか遼がやるから」と二人が口を揃えて完全に放置。エアコンもそのせいか……。


「桐椰くんはいつになったら前みたいに第六西に入り浸るの?」

「もう入り浸んねーよ」

「へ?」


 てっきりもっとおどけた返事がくると思っていたので、思わぬ返事に頓狂な返事をしてしまった。それなのに桐椰くんはさも当然のような顔をする。


「だって、もう十一月だぞ。すぐ十二月になるし、そしたらあっという間に年明けて受験生だぞ。いつまでも第六西でだべってるわけにはいかねーだろ」

「えー……」


 そっか、もうすぐ三年生か……。週末に行われる模試の頻度も高くなってきたと思ったら、年が明けたら受験生になるのか……。あまり実感が湧かない。


「……桐椰くんの志望校って聞いたことないけど、どこなの?」

「んー、まぁ家から通えたら一番良かったんだけど、それだとな……。まぁ週末帰ってこれるように東京のどっかだな」

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