第三幕、御三家の矜持
「ふーん。松隆くんは?」


 月影くんは理三以外受けないらしいとは随分前から知っているけれど、松隆くんの志望校なんて聞いたこともない。というか成績も特待で入ったこと以上は知らないし……。


「アイツは関西じゃね?」

「……お笑い系じゃないのにね」

「お前関西圏に謝れよ、偏見だろそれ」


 松隆くんが大阪でやっていける気がしなくて、お節介にも心配してしまう。でもどうやら、松隆くんの狙いはそんなところにはないらしい。


「家出たがってるんだよ、アイツ」

「あぁー……」

「ま、私立は東京の書いてたけど、知ってる名前書いてるだけだからな、アイツ」

「松隆くんって成績いいの?」

「駿哉ほどじゃねーけど、俺よりいいな」


 おっと……。思わず顔が引きつった。実は模試の成績は桐椰くんは私よりもいい。その桐椰くんよりいいってことは、多分花高だと月影くんに次ぐくらいだ。本当に何でもできて嫌味な王子様な気がしてきた。


「で、そういうお前は?」

「今のところ北海道も沖縄も合格圏内だよ」

「はぁ?」


 本当に模試に書いてる志望校なのに、今度は桐椰くんが頓狂な声を上げる。


「なんだそれ……北海道って……獣医か?」

「え、ううん。私動物好きじゃないし。ていうか文系だよ」

「……だったら別に北海道じゃなくてもいいだろ……。沖縄だって……」


 志望校を選ぶ基準が分からないとばかりに怪訝な顔をされるので、カバンの中からごそごそとポッキーを取り出した。「おい」と返事を促そうとする桐椰くんを無視して、袋から取り出したポッキーを、への字になった桐椰くんの口にさしこむ。


「ん」


 それでも、咥え煙草の要領で口を開こうとするから、もう一本さしこんだ。困った顔をした桐椰くんは指でポッキーをつまんで食べ進めてしまう。


「……なんだよ急に」

「餌あげなきゃと思って」

「俺をなんだと思ってんだ!」


 開けてしまったので、私も仕方なくポッキーをつまむ。十一月も半ば、あと二週間もすれば期末試験があって、それが終わったら修学旅行で、それから帰ってくる頃には年末……。

『学校の創立記念日が金曜日なんだって。だから三連休になって帰るって話してた』

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