第三幕、御三家の矜持
 この間の優実の話を思い出す。どうやら、十一月中に一度帰省するらしい。年末には当然帰省すると分かってたし、そこで会うのは避けられないと思っていたけど、まさか十一月中になるとは……。

 今のところ、逃れられそうな場所は、第六西しか心当たりがない。


「修学旅行が十一月ならよかったんだけどなー」

「なんで? つかお前、修学旅行どこで出してんの?」


 花高の修学旅行は選択式で、大阪京都、台湾、北海道の三択だ。正直、花高だからセレブに海外ばかりが選択肢に上がるものだと思っていたけれど、松隆くんやふーちゃんに言わせれば、どうやら逆らしい。松隆くんは「ヨーロッパとアメリカはいつでも行けるんだから、修学旅行なんて変に縛りのある状態で行きたくない」と斜め左上から返事をくれて、ふーちゃんは「ヨーロッパは飽きてる子が多いし、意外と国内旅行とか台湾って近場だから行かないんだよねー。ていうか昔はアメリカとかあったみたいだけど、人気なくて消えたらしいよ」とやはり斜め右上から返事をくれた。お坊ちゃまお嬢様の感覚はよく分からない。


「ん、私は大阪京都だよ。桐椰くん達も同じなんでしょ?」


 そして、そのよく分からないお坊ちゃまの松隆くんを初めとして御三家は大阪京都を選択していた。松隆くんは「日本が一番好きだし、冬の北海道は無理」で、月影くんは「実は京都は行ったことがない」らしい。


「あぁ、なんだアイツらから聞いたのか。まぁ別にどこでもよかったし、アイツらが大阪京都だし、俺もそれでいいかなと思って」

「お兄さんがいるから?」

「アイツには修学旅行の日程は教えてねぇ」


 冗談で言ったのではなかったのだけれど、桐椰くんからは冷ややかな目と声で返事がきた。


「どーしてくれんだよ文化祭のときみたいにアイツが片っ端からうちの生徒と連絡先交換したら!」

「別に花高生に限らず色んな子とそうしてると思うけど……」

「そういう問題じゃねーよ! 自分の知り合いが兄貴にナンパされてると思うと気まずいだろ!」

「多分辿ればいくらでも桐椰くんの知り合いがナンパされてると思うんだけど……」

「そうだったなお前もだったな……」


< 281 / 395 >

この作品をシェア

pagetop