第三幕、御三家の矜持
 はぁ、と今度は深い溜息を吐くときた。そういえば彼方と知り合った理由はナンパされたからってことにしてたっけ。うっかり口は滑ったけど、彼方があの性格で本当に良かった。

 ……そういえば。彼方繋がりで思い出した。桐椰くんが幕張匠に会いたがってた理由は、何だったのかな。もう金髪でもないし、桐椰くんの口から幕張匠の名前を聞くこともなくなった。もう、どうでもよくなったのかな。

 そんなことを考えていた私は、どんな表情をしていたのだろう。少なくとも良い表情はしていなかったらしく、桐椰くんが少し心配そうな顔になった。


「なんだよ、もしかして兄貴に構われてたの見た元カノに嫌なこと言われたのか?」

「……ここまで斜め上の心配をされたのは初めてだよ」


 昼休みの終わりのチャイムが鳴ったので、桐椰くんは苛立った表情で席を立ち、「じゃな」と短く言って自分の席に戻ってしまった。結局生徒会の話を少ししただけだったな……。帰りも一緒じゃなさそうだし……。ありがたいはありがたいけれど、なんだかな。

 恋愛感情を持たれたくはないけれど、一緒にいてほしいと思うのは、我儘なのかな。

 放課後、十二月から始まる第四考査に備えるべく、花高の自習室へ向かう。そこは典型的な自習室というよりはオープンラウンジで、各校舎の四階にあって、お喋りも許されている。グループ学習のために作られたらしいけど、あんまり利用する人はいないので意外と席も空いているいい場所らしい。花高で居場所を見つける前に第六西という御三家のアジトを使えるようになった私には無縁の場所だったけれど、最近第六西には松隆くんしかいないので、遂に私もラウンジ利用者になってしまった。

 第二校舎のオープンラウンジに行くと、話に聞いていた通り人は少ないし、ノートを広げたまま喋ってる男子もいる。この時期になると予備校を利用している人もいるから余計にだろう。いるのは私と、男子二人組と、女子が一人ずつ二組と──。


「あっ、ツッキー!」


 喜んで名前を呼ぶも、無視。月影くんは黙々と数学を解いている。耳にはイヤホン。ツッキーって勉強するときに音楽聴く派なんだ、知らなかった。……となると、第六西にいるときにしていたのは勉強ではなかった……?

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