第三幕、御三家の矜持
「いーじゃん、昔取った杵柄もアピールしろよ! 桜坂さん、コイツ特待なんだよ」

「グッチ!」

「あ、みたいだねー。バスケもするのにすごいよね」


 鳥澤くんは気まずそうに額を押さえた。濱口くんは私に会えて嬉しそうにうきうきと隣に座る。


「な、俺さ、桜坂さんと話してみたかったんだ。コイツどう?」

「どう、じゃないだろグッチ! 本当ごめん桜坂さん、無視していいから……」

「いや……まぁ……」

「つか勉強してんの? すげーねー、まだ考査まで時間あるのに。……あ、アキに教えてもらえば?」


 濱口くんがぐいぐい鳥澤くんに助け船を出している……。当の本人である鳥澤くんが置いてけぼりだ。

 そして、漸く月影くんが顔を上げると同時にイヤホンを外した。


「あぁ、桜坂か」

「遅いよ! 一時間以上前からいたよ!」

「勉強しているのに君の存在に気付くはずがない」

「これは月影くんの集中力を褒めるべきなんだよね? 私の存在感がないわけじゃないよね?」

「で、濱口と鳥澤は何をしてるんだ」


 次いで私に助け船を出してくれる。そうだ月影くん、私をこの微妙な立ち位置から助けて!

「お、月影じゃん。お前でも勉強すんだな」

「どういう意味だ」

「だってお前ってすげー頭良いんだろ? 一回見たらほぼ丸暗記だって昔聞いたことある」

「さぁ、どうだかな」


 そして再びイヤホンを装着しようとするので、その腕をガッシと掴んだ。迷惑そうな目に見られても、もういい加減申し訳なさすらなくなってきた。


「いやいやそれだけ? 濱口くんにちょっと感じ悪い返事して、それだけ?」

「菊池には宿題を出したので今日の勉強会はお休みだ」

「いや雅の勉強事情の報告を求めてたわけではなくてですね!」

「勉強を教わる相手を探しているなら総にしたらどうだ」


 助け船をくれるどころか、とんでもない話題をぶっこんできた。ひくっと顔をひきつらせる私に構わず、月影くんは少し目を伏せながら飄々と続ける。


「いい加減アイツも勉強するべきだ。遼という見張りも生徒会でいない。お前に教えるとなればアイツも少しは真面目にやるだろう」

「いや……あの……」


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