第三幕、御三家の矜持
 なんなら目を伏せているのは目で問題を読み進めているからのような気がしてきた。この冷徹男! そして隣の隣の鳥澤くんの表情は見えないけど、濱口くんはキョトーンとしているのが分かる。


「松隆? そっか、桜坂さんってマジで御三家と仲良いんだな。つか松隆と何かあんの?」

「何もないよ!」


 思わず食い気味に返事をしてしまった。私は暫く月影くんを恨むだろう。いや恨んでやる。だって濱口くんが怪訝な顔をしている。


「……ま、いいんだけどさ。つかここで勉強していい? もう喋りかけないし!」


 ただ、つっこまれることはなく、私の二つ隣の席に濱口くん、その向かい側に鳥澤くんが座って勉強が始まった。月影くんも含めて、奇妙な四人組だ。濱口くんはそれからも時々鳥澤くんと話していた。分からないところを聞いて、答えてもらうついでに雑談する感じだ。雑談に入って暫くすると鳥澤くんに止められていた。

 そうして、七時になる頃、月影くんが徐に立ち上がって片付けを始める。だから私も慌てて机の上を片付けた。いかんせん、月影くんは勉強道具が少ないので片付けが早い。


「ツッキー、私も帰る!」

「申告しろと言った覚えはないんだが」

「一緒に帰ろうって言ってるんだよ!」

「断る」

「私的断れない誘いベストスリーを百パーセント断ってくるよね、ツッキーは」

「そのランキングが間違っているんじゃないか」

「ツッキーが規格外なんだよ!」

「桜坂さんと月影って仲良いんだなあ」


 私達の遣り取りを聞いていた濱口くんが顔を上げた。部活終わりにやってきた二人は、まだ勉強して帰るんだろう。


「月影って大体の女子を無視してるイメージある」


 正しい認識だ。


「下僕に性別は関係ないからな」


 間違った認識だ!

「下僕……?」

「最初の話でね! 文化祭があった頃は確かに御三家の下僕だったんだけどね、今は仲良しの友達!」

「その花畑のような思考回路でよく試験勉強をしていたな」

「憎まれ口を叩いてくれるのも仲が良いからといいますか──……あっ帰った!」


 あ、仲良いわけじゃないんだ、という濱口くんの憐れみのこもった目が向けられる。月影くんは私を無視してラウンジを出ていこうとしていた。このままでは今日の帰り道が松隆くんとの二人になってしまう。


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