第三幕、御三家の矜持
「じゃ、じゃあ二人とも、頑張ってね!」
「あぁ……」
「……ありがとう。またね」
ただ、月影くんにベタベタしてしまったせいで鳥澤くんに対して非常に申し訳ない気持ちになった。それなのに鳥澤くんが“気にしないで”とでもいうようにいつものちょっと困った笑みを浮かべていた。本当にごめんね鳥澤くん……。
「ねぇツッキー!」
本当に私を待つ気なく帰宅を決め込む月影くんを追いかける。追いついても月影くんが私に視線を寄越すことはない。
「ねぇ、なんであのときあんなこと言ったの?」
「どのことだ」
「勉強を教わりたいなら松隆くんにしろってこと!」
「鳥澤が諦めると思った」
「……どういう意味、それ」
不穏な言葉に、思わず足を止めてしまった。月影くんも足を止める。
目の前にいる月影くんの姿は、私と幕張匠が同一人物だと指摘したときの様子に似ていた。
「君の退路を断っている」
私が、何から逃げている道のことなのだろう。
「君が、遼と総に自身を諦めさせるために鳥澤と付き合うなどという愚策に走らないよう、鳥澤という道を潰している」
「……なにそれ」
鳥澤くんと付き合うことが、そこまで桐椰くんと松隆くんの気持ちを踏みにじることになるのだろうか。
「寧ろ、俺が君を軽蔑する機会もなくなると考えればいいんじゃないか。お得意の無理矢理ポジティブだ」
「……もし私が鳥澤くんを好きだって言ったらどうするの」
「君が? 鳥澤を?」
珍しいどころか、場の空気にさえそぐわない軽口を叩かれたかと思えば、次は鼻で笑われた。
「君は好きな男より俺と帰ることを優先するらしい。照れ隠しか?」
「……ねぇ、月影くん」
ついでに、妙に饒舌な気さえした。
「……月影くんは、昔、好きな人と何があったの?」
確信にも似たその質問に、月影くんは眉一つ動かさなかった。いつも通りに冷ややかな目が、睨むように私を見つめ返すだけだ。
ゆっくりと開いた口も、震えることなどもちろんなく。
「君に、関係が?」
ゆっくりと返された質問は、端的な肯定と拒絶だった。
「あぁ……」
「……ありがとう。またね」
ただ、月影くんにベタベタしてしまったせいで鳥澤くんに対して非常に申し訳ない気持ちになった。それなのに鳥澤くんが“気にしないで”とでもいうようにいつものちょっと困った笑みを浮かべていた。本当にごめんね鳥澤くん……。
「ねぇツッキー!」
本当に私を待つ気なく帰宅を決め込む月影くんを追いかける。追いついても月影くんが私に視線を寄越すことはない。
「ねぇ、なんであのときあんなこと言ったの?」
「どのことだ」
「勉強を教わりたいなら松隆くんにしろってこと!」
「鳥澤が諦めると思った」
「……どういう意味、それ」
不穏な言葉に、思わず足を止めてしまった。月影くんも足を止める。
目の前にいる月影くんの姿は、私と幕張匠が同一人物だと指摘したときの様子に似ていた。
「君の退路を断っている」
私が、何から逃げている道のことなのだろう。
「君が、遼と総に自身を諦めさせるために鳥澤と付き合うなどという愚策に走らないよう、鳥澤という道を潰している」
「……なにそれ」
鳥澤くんと付き合うことが、そこまで桐椰くんと松隆くんの気持ちを踏みにじることになるのだろうか。
「寧ろ、俺が君を軽蔑する機会もなくなると考えればいいんじゃないか。お得意の無理矢理ポジティブだ」
「……もし私が鳥澤くんを好きだって言ったらどうするの」
「君が? 鳥澤を?」
珍しいどころか、場の空気にさえそぐわない軽口を叩かれたかと思えば、次は鼻で笑われた。
「君は好きな男より俺と帰ることを優先するらしい。照れ隠しか?」
「……ねぇ、月影くん」
ついでに、妙に饒舌な気さえした。
「……月影くんは、昔、好きな人と何があったの?」
確信にも似たその質問に、月影くんは眉一つ動かさなかった。いつも通りに冷ややかな目が、睨むように私を見つめ返すだけだ。
ゆっくりと開いた口も、震えることなどもちろんなく。
「君に、関係が?」
ゆっくりと返された質問は、端的な肯定と拒絶だった。