第三幕、御三家の矜持
 思わず、ぎゅっと唇を引き結んだ。いつも冗談めかして「仲良しだよね!」「黙れ下僕」としていた掛け合いは、あくまで私の冗談で、月影くんの本気だったんだろうか。それとも、松隆くんと桐椰くんでさえ、知らないほどのことなのだろうか。

 それが、月影くんの目と声と言葉からは、どうにも分からなかった。


「……でも今日は、一緒に帰ろうよ」

「断ると言っている」

「……そっか」


 月影くんは躊躇いなく踵を返す。

 もう駄々をこねる気にはなれなかった。

 その代わり、帰り道は生徒会の仕事を終えた桐椰くんと一緒になった。そこに松隆くんと雅が合流し、月影くん以外全員揃ってしまった。松隆くんや桐椰くんと二人にならずに済んだのはよかったけれど、そのせいで無駄に月影くんの地雷を踏みぬき見事に大爆発を起こしてしまっただけになった。

 それでもって、第六西で試験勉強をしていたという松隆くんが(ただし自己申告で証人はいない)、勉強で疲れたからアイスが食べたいと言い出したこと、さすがに外で食べるには寒いことから、アイスクリーム屋さんに入ることに決まってしまった。最初は雅がいるだけで変な気がしてたけど、最近は雅もなじみ始めてしまっている。まだ松隆くんと喧嘩はするけど。


「あ、松隆くんに球技大会のアイスあげなきゃ」

「なにそれ?」

「俺が優勝したらアイスおごってくれるって約束だったから」


 きょとん、とした桐椰くんの隣で松隆くんはしたり顔だ。


「だってあのままだと鹿島くんに負けてたじゃん、松隆くん」

「負けてない」

「うん、だからあのままだと負けてたよね?」

「負けなかった」

「ガキかよお前は」

「桐椰くんも優勝したわけだし、おごってあげようか?」


 ただ、松隆くんと桐椰くんの出した結果は同じ。不公平はまずいのでそう提案したけど、桐椰くんは「いーよ、別に」とあっさり断ってしまった。確かに、桐椰くんと松隆くんにおごりながら雅を無視するのも、不公平感が拭えないといえば拭えないけど。


「そういえばさぁ、今日は月影いねーの?」


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