第三幕、御三家の矜持
「別に、聞きたいなら刺激の強くない程度に包み隠して話すけど」

「お前が話す時点で不安だっての」

「じゃあ遼が説明すれば?」

「えっいや……」


 桐椰くんがぐるんと目を泳がせた。雅だけが興味津々で目を輝かせている。


「……生徒会役員を弄んで捨ててたって話は聞いたけど」

「あー……うん、まぁ、うん……」


 桐椰くんにバトンタッチした松隆くんは知らん顔してアイスを食べる。桐椰くんはちょっとだけ恨みがまし気な目を向けた。


「……俺達もあんまり知らないんだけどな……」

「うん」

「……まぁ、女子が言い寄ってきてたのは今と同じで。ただ違ったのは、駿哉がそれに答えて、ちょっと遊んでた時期があったってだけだよ」

「遊んでたってのは?」

「つか菊池、お前普通に噂で知ってんだろ……」


 白々しく詳しい話を聞こうとする雅は鋭い眼光に睨まれる。


「え、でも私はあんま知らない……」

「女子の耳に入ってくることと入ってこないことはあるだろ。つかうちの高校のヒエラルキーすらしらなかったお前の情報網なんかクソだ」

「そこまで言います?」

「まぁまぁ亜季、俺が聞いてた噂は、普通に月影が女ヤり捨──」


 ゴンッ、と雅の頭が二つの手によって机に押し付けられた。すぐに顔を上げた雅が「額! ベタベタする!」と叫ぶ。そこじゃない。


「……あくまでも噂だけどね、桜坂が聞いた噂の通りで間違いはないんじゃない」


 ちらと松隆くんに視線だけで促され、桐椰くんは観念したように頷いた。


「……ま、そういうこと。駿哉が誘われるままに適当な女子とそういう関係になってることがあって、それが生徒会役員だったってだけ」

「駿哉も否定はしないけど、俺達だってわざわざ問いただしたりしないし」

「……急に月影くんがそんなことし始めたら問い詰めたりできないよね……」

「急に立った噂だったからっていうより、時期の問題だよ。冬だったからね」


 雅は目をぱちくりさせて話が分からないとアピールしてみせるけれど、すぐにピンときてしまった。それこそ詳しくは知らないけれど、去年の冬というのは御三家が今ほど一緒にいなかった時期だ。文化祭で鹿島くんが言っていた、御三家がただの問題児だったころの話。その頃のことを、多分今でも三人はお互いに把握していない。


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