第三幕、御三家の矜持
「あたしが聞いた話によるとねー、確か梅宮さんを庇ったので亜季を意識してー、でもまぁ鳥澤くんって一般生徒だから虐めは止められなくて黙ってたらしーんだよね。でも御三家に囲われるようになったわけじゃん? それ見ててやっぱ好きなんだよなーってことを同じくバスケ部のお喋りな濱口(はまぐち)くんに言っちゃってー、それでみんな知ってたみたいな」

「それをふーちゃんが知ってるのはなぜですか?」

「あー、なぜか分からないけど、みんなあたしの前でぺらぺら喋っていくんだよねー。ていうか多分ラノベ読んでるから聞いてないとか思われてるんだと思う。ちゃんと聞いてるんだけどねー」


 あははー、とふーちゃんは軽く笑うけれど、今日も今日とて鳥澤くんが不憫だ。こうも連日不憫に感じてしまったのは鳥澤くんが初めてだ。そのバスケ部の濱口くんというのがお喋りな人だというのならその人に漏らしてしまう時点で鳥澤くんの危機管理意識どうなの、って感じではあるけれど、それをまさか私本人に伝えられているとは思ってないだろう。

 赤組テントの下に辿り着き、体育祭の開会式を待ちながら、ふーちゃんはその他諸々の鳥澤くんの情報を教えてくれた。坂守市立中学出身で、中学校からバスケ部。バスケはそこそこ上手で、レギュラーメンバーに入ることもあるし、少なくともベンチからは外れない。特別目立つわけではないけれど、縁の下の力持ちタイプで、爽やかで真面目な性格だから地味に女子に人気がある。でも彼女はいたことがない。聞けば聞くほど生徒会の差し金なのではないかという疑いを持った自分が恥ずかしくなるくらいの好青年だった。


「で、どーしたの、告白」

「え、断ったけど」

「えー、勿体ない。あー、でも亜季には御三家がいるかぁ」


 御三家がいたらさすがの鳥澤くんも敵わないねぇ、とふーちゃんは仕方なさそうに頷いた。確かに聞いた限りの情報では鳥澤くんはかなり上位の部類に位置する人だと思う。ただし、御三家さえいなければ。


「ていうか、鳥澤くんに桐椰くんとの関係突っ込まれなかったの?」

「BCCのこと? それは訊かれたけど、何もないって答えたよ。カップルじゃないってあの場でバレちゃったし、わざわざ断るために付き合ってるなんて嘘吐く必要ないし」


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