第三幕、御三家の矜持
 どこまで話させてもらえるか試していると、久しぶりに頬を抓られた。余計なこと言うんじゃねーよと頬の痛みが伝えてくる。

 雅は「へー、泣く子も黙る不良は女子力もすげぇんだな」と白い目で私達を見つめる。


「つかあれか、お前がそれってことは彼方もそうなのか?」

「は?」


 ぽいっと私の頬が解放された。


「なんでお前兄貴のこと知ってんだ?」

「えっあっ」


 ……雅。私も一瞬気付かなかったけれど、雅と彼方が知り合いだということを桐椰くんは知らないんだった。

 雅はしどろもどろと「あー、えっと、まぁほら俺元ヤンだし……」なんて誤魔化し始めるけどもう遅い。


「……兄貴は大学行ってから不良と関わりねーけどな」

「いやアイツ意外と後輩連中の世話焼いてんぞ。出くわすとちょいちょい高校のときからつるんでる後輩と遊んでたしな」

「ってことは兄貴が大学行く前から知ってんだな」


 なんなら喋れば喋るほどボロが出る……。私の口から何かフォローすれば私も昔から知ってたってバレるし……。額を押さえて溜息をつきたくなるのを堪えた。ただ、雅と彼方が知り合いなのはバレても困ることはない だろうし、流れに任せておこう。


「お前と現役の兄貴が関わりあるとしたら二年以上前だな。ってことはまだ幕張がいた頃か」


 ついでに半年ぶりに桐椰くんが不良に見えた。雅を尋問しようとするその目だけでも十分なのに、腕を組むだけでピリピリした空気が飛んでくる。


「つまり幕張共々知り合いだな。ちょっと詳しく話してもらおうか」

「やべぇ俺用事思い出したから帰る」

「話は終わってねーだろ?」


 ガタガタッと立ち上がった雅の胸倉が掴まれた。テーブルを挟んで身を乗り出してまでするなんて大袈裟な……。隣の松隆くんなんて興味なさげにサクサクとコーンを食べ進めているだけなのに。


「兄貴とはいつどこで知り合った?」

「あー、えと、街中フラフラしてるときに……たまたま……」

「幕張も一緒に?」

「あー、うん……でも匠のほうが個人的に関わりあったと思うぜ! アイツ、匠のこと気に入ってたし」

「はぁ?」

「だってアイツそういうヤツじゃん! 世話焼きじゃん! 気に入った後輩の面倒見たがるじゃん! 多分それだろ!」


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