第三幕、御三家の矜持
 凄みを増して胸倉を引き寄せる桐椰くんに、雅はぶんぶん首を横に振りながら早口で誤魔化す。本当は、彼方がやたら私を可愛がったのはただ単純に女子だからだ。幕張匠の姿でしか彼方の前には現れたことはなかったのに、あの彼方特有の女好きセンサーみたいなもので女子だと見破られてしまった。彼方の女好きは本当に恐ろしい。

 なんてことはどうでもよく、雅は「いいから手離せ!」「街中フラフラってなんだよどこだ」「話聞けつーかんなこと覚えてねーよ! アイツも有名な不良だったし、喧嘩で会ったとかじゃねーの」「それを覚えてねーのかお前は」「あぁ覚えてねーよ頭悪いんだよ!」と怯え半分反抗半分で白状を続けている。あれ、雅ってこんなに弱い子だったっけ……。桐椰くんに歯向かったら月影くんに勉強を教えてもらえないと思ってるのかな……。それとも夏休みの事件以来本気で桐椰くんに怯えてしまったのかな……。

 なにはともあれ、雅は彼方との出会いなんて全く覚えていないらしいので、白状されて困ることもない。


「じゃあ私帰るねー」

「いや亜季! コイツから俺助けて行って!」

「えー、だってこういう時の桐椰くんしつこいし……」

「こういう時の俺ってなんだよ!」

「じゃあ桜坂は俺が送るよ」

「待て俺も帰る。コイツからは帰り道でゆっくり聞く」

「喋ることなんてねーよ俺!」


 雅が拒否するも、帰り道でも桐椰くんの追及は緩まなかった。覚えてない、忘れた、を繰り返す雅は、私達の後ろで何度胸倉を掴まれていたことか。松隆くんといい、最近雅の扱いが非常に雑になっている気がするので気を付けてほしい。


「だーかーら、知らねーよ、俺だって匠にはもうずっと会ってねーんだから」

「へーえ、相棒なのに」

「相棒つか一緒にいただけだよ。連絡先すら知らなかったんだぞ」

「んなわけねーだろ」

「そうなんだよ! 基本秘密主義だったし、周り信用してなかったしな」


 そして雅を通して昔の私を知るのはなんとも複雑な気持ちになる。雅から見た私は秘密主義だったのか……。確かに答えたくないことは返事をしないで無視してしまうことが多かったからそうかもしれない。


「つか何でそんな匠に会いたいんだよ」

「お前に関係ねーだろ」

「散々聞いといてそれはねーだろ!」


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