第三幕、御三家の矜持
 ご尤もだ。代わりに松隆くんがちょっとだけ後ろを向いて話に入る。


「遼は幕張とちょっと色々あったんだよ」

「色々って?」

「総、余計なこと喋んじゃねーよ」


 ぜひその点については私が聞きたいことだったのだけれど、桐椰くんに言われて松隆くんは肩を竦めて黙ってしまった。それが分かれば私にもまた色々とやることはあるのだけれど……。


「ま、お前が大して情報持ってないもしくは吐く気がないことは分かった」

「本当お前らヤクザかよ! 今度から御三家って書いてヤクザってルビ振れよな!」

「じゃ、俺はここで」

「無視かよ!」


 そして、再び桐椰くんは家に着く前に去ろうとする。この間と一緒だ。雅は「んじゃーな」と早く立ち去ってほしそうにしているけれど、私と松隆くんは顔を見合わせる。ただ、松隆くんの目がちょっとだけ意地悪く笑った気がしたので、私の背筋は震えた。


「この間もそうだったけど、何で最近家まで送らないの?」

「……最近生徒会の仕事忙しくて家事遥に押し付けっぱなしだから」

「ここまで来たら一緒じゃない?」

「……お前いるからいいかなって」

「ふーん。つまり家の近くまで来てしまえば、俺が桜坂に手は出せないと思ってると」


 そこでまさかの松隆くんの手に肩を抱かれた。悲鳴を上げる余裕もなく、ただただ突然の出来事に心臓が口から飛び出そうになった。


「ちょ、ちょちょちょ!」

「おい松隆!」


 雅も叫ぶけれど、胸倉を掴むのは桐椰くんが早かった。


「そういう話はしてねーだろその手を今すぐどけろ」

「そういう話じゃないならどういう話?」

「なんで俺が帰るイコールコイツにセクハラしていいことになってんだよ!」

「俺がいるのに遼もいるってことは見張られてるんだと思ったんだけど」


 無理ある、無理あるよリーダー! 白々しいきょとん顔やめなよリーダー! 桐椰くんのひきつった笑顔すら引っ込みつつあるよリーダー! ていうかのらりくらりしてないで私から手を離してよ!

「そういうつもりじゃなかったけどお前がセクハラするってんなら今後は見張ってやるよ! いいから今すぐ手を離せ」

「別に今は離していいけど、お前がいなくなったら好きにするよ」

「ちょっと松隆くんやめてくれません!?」

「ほらみろ嫌がってんだろ!」

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