第三幕、御三家の矜持
 体育祭で……? 松隆くんが桐椰くんと体育祭で会って話したのは、どのタイミングだ。どうしてか私が必死に記憶を探り頭を回し、二人のした会話の意味を知ろうとする。

 体育祭で、松隆くんは桐椰くんの初恋が優実だったことを知った。それは桐椰くんと優実が会っているのを見たからだ。それに対して“それでいいの”と訊ねるということは……松隆くんは桐椰くんと優実の関係を推してる? 最初は桐椰くんと(素性不明の)初恋の人との関係を推し、お祭りは二人で回ろうと私を連れて行った。別荘で桐椰くんの曖昧な態度を詰って土俵に上げようとしたとはいえ、結局ライバル視はしていたわけだし、そう考えると、桐椰くんと優実との関係を結び直そうとしているように思える。でも告白はもういい、という言葉が初恋云々を口にした直後の台詞だったことを考えれば寧ろ身を引いたと……。いやいや球技大会では推して駄目なら引いてみろ作戦でしたとなったわけだし、やっぱり桐椰くんを蹴落とすつもりで……。

 松隆くんの意図がどちらにあるのか分からず、二人を視線だけで交互に見つめる。

 できれば、無関係なふりをしてこの場から去りたかった。


「この期に及んでまだ俺を焚き付けるとか」


 でも当然そんなことはできなくて、桐椰くんがせせら笑うのを見てしまった。


「キスしたから、そんな余裕あんの?」


 相手を見下すような、嘲笑うような、(さげす)むような──そんな桐椰くんの表情を、見たくなかった。私が知っている桐椰くんの、そんな側面を見たくなかった。怒りやすいふりして温和で、優しくて、可愛い桐椰くんが、そんな感情を他人に向ける様子なんて、見たくなかった。

 でも、それをさせたのは私だ。


「お前は俺と桜坂がキスする仲だから遠慮してるってわけ」


 本当は弁解の一つや二つしたほうがいいのかもしれないけれど、勇気が出なかった。私のせいだ、なんて感情が酷く烏滸がましかった。


「……結局お前らはどうなんだよ。二人で祭り行って、キスして、付き合わねーの?」


 「松隆くんとキスなんてしたことないよ、誤解だよ」なんて言い訳は、どうにもこうにも傲慢な発言としか思えなかった。


「話をすり替えるなよ。俺と桜坂の関係次第でお前は身を引くのかって俺は聞いてる」


 だから、口を挟むことなんてできなかった。


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