第三幕、御三家の矜持
BCCのことは周知の事実なので喋っても何の問題もない。話しながら手を横に振ると、ふーちゃんも「そうじゃなくて」と手を横に振った。
「BCCのことなくてもめっちゃくちゃ仲良しじゃんー? 亜季と桐椰くん」
「……そうかな」
「そーだよ。教室でもよくイチャイチャしてるって桐椰派がよく怒ってるじゃんー」
「それは存じ上げませんでした……」
御三家のことで睨まれるのはもう慣れっこなので、今更誰がどういう意図で私を睨んでいるのかまで気を配っていなかった。私に手を出した女子は悉く松隆くんの制裁を食らうせいで私が敵を意識する必要もないせいだ。平和ボケしているみたいで少し反省した。
「でもさー、ずっと気になってたんだけど、亜季って桐椰くんと何もないの?」
「ないですよ」
慌てることなく、でも惑ったとは思われないように、冷静に適切なタイミングで返事をする。鳥澤くんに訊ねられたときの反省を生かした。お陰でというべきか、ふーちゃんが訝しんだ様子はなかった。ただ釈然としない様子で「ふーん……」と首を傾げる。
「あの、言っとくけどBCCで私と桐椰くんが組んだのは消去法で……」
「そうじゃなくてさぁ、桐椰くんって亜季にだけ優しーじゃん? あれはてっきりそういうことだと思ってた」
「桐椰くんは脊髄反射で他人に親切なことしちゃうくらい優しいよ?」
何を見当違いのことを、と顔でリアクションをとってみせるけれど、ふーちゃんは納得しない。それどころか私にこそ見当違いだと言いたげな表情に変わった。
「え、でも桐椰くんがちょっかいかけるのは亜季だけじゃない?」
「……ちょっかい」
「ちょっかい。だってあれなんでしょー、亜季が桐椰くんいじってー、桐椰くんは亜季の頬引っ張るみたいな」
「それは我らがリーダーの策略ですね……」
松隆くんが最初に私達に命令した「苛立ったらカップルのじゃれ合いに見えるようにしろ」というのは予想以上の成果を齎してしまったようだ。その成果、最早誤解の域。ふーちゃんは私の言葉にきょとんとしてみせたけれど、ややあって「よく分かんないけどー、ま、松隆くん頭良さそーだもんね」とその腹黒さを知らなさそうな返答があった。
「BCCのことなくてもめっちゃくちゃ仲良しじゃんー? 亜季と桐椰くん」
「……そうかな」
「そーだよ。教室でもよくイチャイチャしてるって桐椰派がよく怒ってるじゃんー」
「それは存じ上げませんでした……」
御三家のことで睨まれるのはもう慣れっこなので、今更誰がどういう意図で私を睨んでいるのかまで気を配っていなかった。私に手を出した女子は悉く松隆くんの制裁を食らうせいで私が敵を意識する必要もないせいだ。平和ボケしているみたいで少し反省した。
「でもさー、ずっと気になってたんだけど、亜季って桐椰くんと何もないの?」
「ないですよ」
慌てることなく、でも惑ったとは思われないように、冷静に適切なタイミングで返事をする。鳥澤くんに訊ねられたときの反省を生かした。お陰でというべきか、ふーちゃんが訝しんだ様子はなかった。ただ釈然としない様子で「ふーん……」と首を傾げる。
「あの、言っとくけどBCCで私と桐椰くんが組んだのは消去法で……」
「そうじゃなくてさぁ、桐椰くんって亜季にだけ優しーじゃん? あれはてっきりそういうことだと思ってた」
「桐椰くんは脊髄反射で他人に親切なことしちゃうくらい優しいよ?」
何を見当違いのことを、と顔でリアクションをとってみせるけれど、ふーちゃんは納得しない。それどころか私にこそ見当違いだと言いたげな表情に変わった。
「え、でも桐椰くんがちょっかいかけるのは亜季だけじゃない?」
「……ちょっかい」
「ちょっかい。だってあれなんでしょー、亜季が桐椰くんいじってー、桐椰くんは亜季の頬引っ張るみたいな」
「それは我らがリーダーの策略ですね……」
松隆くんが最初に私達に命令した「苛立ったらカップルのじゃれ合いに見えるようにしろ」というのは予想以上の成果を齎してしまったようだ。その成果、最早誤解の域。ふーちゃんは私の言葉にきょとんとしてみせたけれど、ややあって「よく分かんないけどー、ま、松隆くん頭良さそーだもんね」とその腹黒さを知らなさそうな返答があった。