第三幕、御三家の矜持
「ねーえーツッキー、どうも国語の点数が上がらないんだけど、何でだと思う? 何に問題があるんだろ?」

「君の頭だろうな」

「待って、もう少し付き合って。一言でバッサリいくのはやめて」


 目の前のツッキーは無視して読書に勤しむ。隣の鳥澤くんが苦笑しながら自分の問題冊子を差し出した。


「えっと……俺で良ければ解法っていうか、思考の流れみたいなの見せられるけど……」

「それを見て分かるのであればもう分かっていていいはずだがな」

「だったらツッキーが教えてよ!」

「知らん」


 とりつく島もない月影くんの態度に、鳥澤くんの表情も固まっている。当たり前だ、こういう月影くんと付き合っていくには(御三家を除いて)うざいくらい絡む以外方法はないけど、鳥澤くんはそういうキャラじゃない。

 さて、ラウンジにて、一体なぜこんな謎の三人組でいるかといえば──私にも説明できない。

 私と鳥澤くんが一緒にいる理由は単純明快だ。前回、濱口くんと鳥澤くんがラウンジに来たのは、偶然というよりは、普段の勉強場所にしているかららしかった。そうなれば鳥澤くんがいるのは当たり前だし、私があえて立ち去るのは非常に感じが悪いので、ラウンジでの勉強を続けている。

 因みに初日は濱口くんもいたのだけれど、すぐに「気きかせまーす」なんて軽快な挨拶と共にいなくなった。それはまだ分かる。でも代わりに勉強しない月影くんがやってきた。勉強をしないとはいえ、月影くんは私と鳥澤くんが向かい合うテーブルにわざわざついている。多分見張りとは思うのだけれど、公言しているわけでもないのに真横でなされる見張りなんて聞いたことないので、何かあるのかと時々話しかけるも、対応は平常運転。全く意味が分からない。

 というか、月影くんがラウンジにいるだけで、試験勉強そっちのけで見物にくる女子がいる。私語オーケーだし、そんなに雑音が気になるタイプではないのだけれど、黄色い声の混ざったヒソヒソ声は集中力を削ぐのに十分だ。

 はぁ、とシャーペンを置いて立ち上がる。


「私、コーヒー買ってくるね。鳥澤くんなにか要る?」

「あ、それなら俺も──」

「俺が行こう」


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