第三幕、御三家の矜持
 常に塩対応の月影くんがここで私についてくるときたか……。鳥澤くんはひくっと頬をひきつらせ、立ち上がろうと机についた手をそろそろと引っ込めた。鳥澤くんは、松隆くんに柱ドンをされたときよりも、月影くんの一挙一動に怯えているような気がする。どっちかいうと松隆くんのほうが怖がられそうなのに、意外だ。

 そんな鳥澤くんの様子を見ながら、月影くんと自販機の前へ向かう。校内を月影くんと二人で歩くなんて妙な気分だな。


「ツッキー、勉強しないなら第六西に行きなよ」

「いま誰もいなくてな」

「え、松隆くんくらいいるでしょ?」


 桐椰くんは生徒会の仕事で忙しいにしても、と首を傾げると、離れた眼鏡の奥から馬鹿にしたような瞳が見下ろしてきた。


「君と第六西で遭遇するのを(はばか)って二人共来ないんだが?」

「……大変申し訳ございません」


 ことの顛末(てんまつ)(というべきか分からないけど)は例によって全部知ってるんだな……。そっと目を逸らす。

 そんなの当たり前といえば当たり前だ。私自身が第六西に行かないし、帰り道には松隆くんすらいなくなった。それどころか、桐椰くんと私が教室で一言も話さなくなったことは噂にまでなった。挙句その噂の内容というのが「あの二人、まさか本当に付き合ってて別れたんじゃないよね?」なんて地雷必至のものだったせいで、余計に関係が悪化する気しかしていない。

 月影くんは小さな溜息を吐いた。


「……遼の彼女も総の彼女も、まともでいてほしいと思ったので君が付き合うなど反対していたが、総に関してはあまりにも執着、遼と総の関係が拗れる一方……どちらかと言われれば総だと思い、いっそのこと付き合ってしまえばいいとも思った。が、全てただのお節介だったな」

「……えっと」

「そこまで無理だというなら、俺はもう何も言わん」


 自販機の前まで来ると、月影くんは迷わずホットコーヒーを選んだ。財布をズボンのポケットに入れながら、空いている片手だけで器用に缶を開ける。ただ、熱かったのか、財布を離した手に持ち替え、暫く飲まずに待っている。眼鏡が少し曇った。


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