第三幕、御三家の矜持
「初心に戻ってしまえば、別に何がどうということはない。御三家(おれたち)と君は、主従と利害一筋とは言わないが、ただの御三家ともう一人の生徒だ。ただし、最初に話した通り、君だけを御三家(おれたち)は守るし、間には恋愛感情を介在させない。それだけだろう」


 月影くんと同じくコーヒーを一本、それからココアを一本買った。熱くないようにセーターの袖を少し伸ばし、掌を覆った状態で掴む。


「誰よりも融通がきかないって思ってたけど、誰よりも物分かりがいいね、ツッキーは」


 睨まれた気がした。気にせずに歩き出せば、一つ溜息を吐かれる。


「生憎、あの二人と違って他人に向ける感情が少ないからな」

「すっごい冷たい言葉だけど今はすっごく安心するよ」

「君に限った話ではないんだから冷たくはないだろう」


 何かおかしいような気もするけれど、みんなに同じ態度なら冷たいことはない……か?

「因みに鳥澤に関しては心配する必要はない。少なくとも俺は連絡を受ける」

「敢えて空気を読まずに言うと、私は月影くんに連絡するのさえ気まずいんですよね」

「下僕とはいえ何を遠慮することがある。契約の内容はきちんと求めなければ損をするぞ」

「色々とツッコミたいことはあるんですけど、ありがとうございますってことでいいんですかね」


 ラウンジに戻ると、黙々と勉強していたらしい鳥澤くんが顔を上げた。


「コーヒー飲める? ココアもあるよ」

「え、ありがとう。桜坂さんはどっちがいいの」

「どっちでもいいよ」

「初々しいカップルだな」


 遣り取りを馬鹿馬鹿しいと思ったのか、刺すような皮肉が向けられた。鳥澤くんが震えてるじゃん……。結局ココアを差し出しながら、知らん顔をし始めた月影くんに対して口を尖らせる。


「月影くん……私を虐めるためにここに来てるの?」

「そこまで暇ではない」

「暇そうじゃん?」


 ここ数日間、勉強してる姿を見ていないのですが、それは。


「確かに勉強の必要がある君よりは暇だな」

「それただの嫌なヤツだってば!」


< 302 / 395 >

この作品をシェア

pagetop