第三幕、御三家の矜持
 というか、学年一位のほうが勉強の必要もなくて暇だなんて、その言葉だけ聞けば鶏が先か卵が先かみたいな話だ。分かるのは月影くんが全力で嫌な人になっているだけだ。私はまだ慣れてるから(というか半分冗談で言われているのは分かってる)いいとして、鳥澤くんにとっては不快極まりないのでは? 視線だけで様子を伺うけれど、鳥澤くんは気まずそうに硬直した表情で勉強してるふりをしている。なるほど、その反応か。


「ねぇツッキー……勉強しないなら帰りなよ……」

「勉強以外も許されているはずだが」

「ツッキー目当てで来る女子のせいで気が散るから」

「それは俺のせいではないな」

「半分くらいツッキーのせいだよ」


 ただ、理性的な女子ほど「月影くんがいると集中できない」という理由でラウンジからはいなくなる。だから月影くんがやってきた日に比べれば女子は減った。でもまだ残ってる人はいる。キッとなって月影くんに恨みがまし気な目を向けるけど、やはりどこ吹く風といわんばかりの態度で読書を続けるだけだった。

 そんなラウンジでの勉強は、十九時を過ぎる頃からなんとなく片づけが始まって終わる。片付けを見た月影くんは本を閉じるし、その様子を見た女子数人も片付けを始める。あの人達、勉強すればいいのに。

 因みに、月影くんは帰りを送ってくれるわけではない。私が一人で帰るように見えると鳥澤くんが送ってくれそうになるので、まるで一緒に帰るかのようなふりをするだけだ。役割が熊除けの鈴だ。

 鳥澤くんは使う校門も違うので、下駄箱を出たあたりでさよならする。月影くんとは途中まで一緒なので、校門で雅と合流して帰る。雅は少し早くついてしまったらしく、その鼻の頭を少し赤くしていた。


「なー月影、最近課題多くね?」

「そのぶん俺の手間も増えているんだが」


 可処分時間を増やすためなのか、帰り道を歩きながら月影くんはぱらぱらとノートを捲っている。


「だったらもう少し減らしたほうがお互いのため……」

「君の頭がもう少しマシであれば減らせるんだがな」

「何も言い返せねぇ……」


 くっ、と雅は拳を握りしめるだけだけれど、多分憤慨するくらいしてもいいと思うよ。


「つかさぁ、お前東大の理三志望なんだろ? こんなに俺の世話焼いてていいわけ?」

「いいから世話を焼いているんだが」

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