第三幕、御三家の矜持
「聞いといてなんだけどなんかむかつくな」


 月影くんには嫌味かと思えば優しさとも思える台詞が多くて、こちらをなんとも微妙な気持ちにさせる。雅もそれを分かってくれたらしい。仲間が増えた。


「では俺は帰る」

「じゃあねー」


 分かれ道で月影くんに手を振り、ついでにマフラーを巻きなおした。


「雅、首回り寒くないの?」

「うーん、寒い。でも冬服どこにあるかわかんねぇ」

「もうすぐ十二月なんだから探しなよ……」

「んー、土日になったら探すかな」

「だからその前に十二月に入るでしょ」


 確かに今年の秋は暖かかった。ふーちゃんが「今年のコートが可愛いから早く着たいのにー」と嘆いていた。ふーちゃんが初めて女子らしく見えた瞬間だった。

 はーあ、と雅は何かを諦めるように首を傾けて溜息を吐く。


「もう年末かぁー。なーんか今年は色々あったから疲れた気がする」

「御三家がいるせいで濃くなってる説あるよね」

「あるある。俺なんか御三家──月影いなかったら進路相談で叫ばれることもなかったぞ」

「叫ばれたの?」

「あぁ、『お前就職一択だったのにどうした!』ってな」

「あ、そっか、大学行くの?」


 月影くんに勉強教えてもらってるくらいだし、と付け加えれば雅はこっくり頷いた。


「経済的に行けるんだったら行けって言われて。さすがに遠くは行けないけど」

「そっかー。じゃあ問題起こさないようにしなきゃいけないね」

「あ、そっか!」


 当たり前のことであるはずなのに、雅は言われるまで気が付かなかったかのように愕然とした表情を私に向けた。勉強以前の問題なんだけど、大丈夫かな……。

 まじかー、と雅はまた溜息を吐く。


「確かにねー、大人しくしてますよ、高校に上がってから。でも仕方ないじゃん、中学のときの連中が絡んでくることあるんだもん」

「身から出た錆だね」

「うん? うん」

「雅、意味分かってないでしょ。ちゃんと国語も習ってね」

「そうなんだよ国語の点数伸びねーんだよ……」


 そっと雅がわざとらしく顔を覆った。私も国語は伸び悩んでいるので気持ちはよく分かる。


「月影くんから何の科目習ってるの?」

「んー、数学は最近諦められた。数学もできないのに理系ってナメてんのかって言われた」


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