第三幕、御三家の矜持
 諦め……。多分月影くん語に引き直すと「数学が理系の要だということを知っているか?」だろう。……月影くんと話すと雅の語彙力も上がるかもしれない。


「だから今は英語と国語と日本史」

「絞ったねぇ」

「メインは英語だけどな。英語できないなら大学行くのやめろって言われた」


 受験生の何割かを敵に回しそうな発言だけど、鳥澤くんは確か英語は苦手ではないと言ってたので、ラウンジでうっかり口にしないように注意する必要はないだろう。


「でもそっかー、こんなに勉強してんのに問題起こしたらパァか……」

「そうだよ、気を付けてね」


 ね、と念押しすれば、雅は「はーい」とあまり危機感はなさそうに頷いた。





 十二月に入った。まるで暦を意識しているかのように気温は一気に下がり、コートと手袋が手放せなくなった。前の高校はそう新しくもないので隙間風にも耐えなければいけない教室があったけれど、そこはさすが花高、装備は完璧だ。お陰でラウンジは勉強スペースというよりは少し居心地のいい場所に変わりつつある。


「……ツッキー、本当に勉強しないの?」


 だからといって試験を来週に控えているのに勉強してないのは月影くんくらいだ。十九時前、誰もいないとはいえ、みんな空腹に耐えかねて帰宅を決めてるだけで、勉強はしていると思う。

 月影くんは少し悩むように本から視線を上げた。


「試験勉強は終わった」

「してるの見たことなかったんだけど……」

「勉強会は苦手なんでな」


 勉強会(みたいなもの)に来てるのに感じ悪いな! 鳥澤くんの表情がまた強張ってるじゃん!

 ただ、そこでパタン、と本を閉じるので、勉強始めるのかな、と思ったら席を立っただけだった。多分トイレだ。

 月影くんがいなくなると、漸く緊張から解放されたかのような顔をした鳥澤くんがシャーペンを置いて椅子の背に凭れる。ふぅー、と息まで吐くので笑ってしまった。


「ごめんね、月影くんがいて」

「いや全然! 付き合ってるわけでもないし、そうでもないのに馬鹿馬鹿しいって皮肉られたくらいだし……」


 この間のことだ。鳥澤くん気にしてるじゃん! あんまり鳥澤くん虐めちゃだめだよ月影くん! ただ私が謝るべき場所でもないので、ただ申し訳なさを顔に出すだけにしておいた。


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