第三幕、御三家の矜持
「ところでちょっと話変わるんだけど……」

「あ、うん」

「……あの、嫌なら答えなくていいんだけど……桐椰との噂って本当?」


 休憩がてら飲んでいる缶コーヒーを吹き出してしてしまいそうになった。鳥澤くんは視線を泳がせている。そうですよね、気になりますよね。


「付き合ってたけど別れたってヤツだよね? ただの噂だよ」


 何もないというと嘘になるので黙っておいた。


「……じゃあ喧嘩とか?」

「うーん? そういうわけでもないけど、どうして?」

「や、その、桜坂さんって桐椰と仲良いじゃん……?」


 BCCのことだよね。最初も付き合ってるのか聞いたのは桐椰くんだったもんね。

 でも、そう見えるのは別として、私と桐椰くんは本当に仲が良いんだろうか。


「まぁ悪くはないけど……。ほら、見ての通り、私は月影くんととても仲が良いので」


 どこが見ての通りなのか伝わるか心配だったけれど、鳥澤くんはほっと胸をなで下ろしたように「そっか、よかった」なんて零した。桐椰くんと特別仲が良いわけではないというのに安心するのはまだ分かるけど、月影くんと仲が良くて安心するというのは……。


「どういう……」

「あ、いや……その……」


 首を傾げれば、自分の発言の奇妙さに気が付いたように慌てられる。ついでどもりながら「……すごく性格悪いこと言っていい?」と絶対に悪くなさそうな断りを入れられた。


「どうぞ」

「……一番仲が良くてあれなら、大丈夫かなって」


 月影くん……。鳥澤くんが初っ端に松隆くんの脅迫を受けてもまだアプローチをかけてくる理由は月影くんにあるんじゃないかと思えてきた。自分で手間を増やしてるぞツッキー。でもこんなこと言ったら「仲が良いと嘘を吐いた君の責任だ」なんて言われるんだろうな。


「まぁ、はい、あんな感じでやってます……」

「あ、でも、女嫌いの月影だから、あれはやっぱりちゃんと仲が良い証拠なのかな……」


 ふーむ、と鳥澤くんは顎に手を当てる。“あれ”と形容されてしまう月影くんの態度。


「でもああ見えてちゃんと優しいんだよ、月影くん。口では散々に言うけど私の友達の勉強見てあげてるし、身内には甘いってわけじゃないけど情が深いっていうのかな、色々気にかけてるし。それに、口も堅いし」


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