第三幕、御三家の矜持
 未だに松隆くんと桐椰くんは雅が元カノだと思い込んでるし、私と幕張匠が同一人物だなんて知らない。一人にバレたらあっという間に残りの二人にもバレてしまいそうなのに、本当に助かる。


「そっか……確かに口堅そうだよね。普段からあんまり余計なこと話さないし」

「でもあれはあれで話さな過ぎな気はするよねぇ」


 それでもって余計なことは話すし、と口を尖らせれば「仲良い証拠じゃん」と返ってきた。気を付けて鳥澤くん、苦笑いしながら言っても説得力ないよ。


「とりあえず、月影くん帰ってきたら帰ろうか」

「そうだね。試験大丈夫かな」

「鳥澤くんは大丈夫でしょ、特待じゃん」

「いや本当、名ばかりだから恥ずかしくて名乗れないんだって……」


 いつもの照れた仕草をとりながら、鳥澤くんは荷物を片付ける。私も荷物を片付けていると月影くんが戻ってきた。


「帰るのか」

「うん。ツッキーも帰るでしょ?」

「あぁ」


 本をカバンにしまえばいいだけの月影くんは準備が早い。本当、鳥澤くんからしたらお邪魔極まりない上に存在が嫌味になっている。私からすればありがたいのだけれど、もう少し離れたところで見守ってほしかった。

 ただ、それも明日で終わりだ。下駄箱までも重苦しい空気の三人で移動して、別れた後が漸く安寧の時間だ。はぁー、と深い溜息を吐く。


「もー、空気が重かったせいで勉強捗った気がしないよ」

「場所を変えればよかったんじゃないか。そうすれば俺も勉強したかもしれん」

「ツッキー、前の試験前はもっと勉強してなかった?」

「そろそろ受験勉強にシフトしようと考えたんでな」


 おかしい、受験勉強をすることと試験勉強をしないことはイコールではないはずなのに……。でもそれを指摘すると言いくるめられそうなのでやめておいた。


「……あれ」


 と、校門まで来て、辺りを見回す。月影くんも珍しく驚いた顔をした。


「菊池がいないな」

「え、何も連絡ないんだけど……」


 慌ててスマホを確認する。確かに何の連絡もなかった。

 まさか──。サッと自分の顔が青くなるのを感じる。気を付けてね、なんて言った矢先、また何かの事件に巻き込まれた──?

「ちょ、っと、連絡してみる……」

「あぁ、俺も──」

「つーきかーげクン」


 ひたりと。

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