第三幕、御三家の矜持
 そんな雑談をしている内に開会式の時間になり、色別に整列を求められる。何の練習もしていないので初めて聞く指示に従ってグラウンドに整列した。体育祭日和の眩しい太陽がじりじりと照り付けるグラウンドは一刻も早くこの場を去りたい気持ちにさせてくれる。雑談も許されない式は酷く退屈で (周りに友達はおろか知り合いすらいないからどうせ話し相手はいないけれど)、開会式の挨拶には理事長、校長、とイベントだけでしか見かけないような顔が登場する。かと思えば、生徒会の保体役員と生徒会長まで登場した。保体役員は知らない男子だったけど、鹿島くんは今日も爽やかに優等生だった。お陰で私語禁止の式の真っただ中で女子が少しだけ明るく囁き合う。確かに、登壇の際の堂々とした立ち振る舞いにも、その喋り方にも、「人前に立つのに慣れてるんだね」以上の感想は、確かにあるんだろう。でも松隆くんに言わせれば痴漢もいいとこだし、そうでなくても脅迫相手を欠片も魅力的には感じられなかった。


「以上を持ちまして、花咲高等学校第九十九回体育祭開会式を閉会致します──……」


 閉会の挨拶を聞きながら溜息を吐いてしまった。特別運動が得意なわけでもない私にとっても楽しみな行事ではないし、二十数分に渡る開会式だけですっかり疲れてしまった。障害物競走までは少しだけ時間があるので、すかさずテントの下の日陰を陣取る。木陰もあるけれどこの季節の木々には虫が潜んでいるのであまり近寄りたくなかった。テントの下ならその心配とは無縁だ。ただ、代償というべきか、生徒がたくさんいるテント下は視線も声も向けられるの待ったなし、だ。視線と声の主は、いつもなら教室の場所のお陰で同級生くらいに限られているけれど、今は上級生と下級生のものが混ざっている。いい加減視線には慣れたし無視すれば済むけれど、口々に聞こえてくる悪口までは物理的に遮断のしようがない。耳を塞ぐわけにもいかないし、と体力を温存すべく取り敢えず座り込もうとする。


「元カレのためならヤられていいとか、引くんですけど」


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